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ジュディ 虹の彼方にのsatoshiのレビュー・感想・評価

ジュディ 虹の彼方に(2019年製作の映画)
4.1
 『オズの魔法使い』にドロシー役として主演し、ハリウッドの黄金期を代表する女優であるジュディ・ガーランド。本作は彼女の伝記映画です。私が本作を鑑賞しようと思ったのは、単純に主演のレネー・ゼルウィガーがアカデミー賞主演女優賞を受賞し、話題になったから。ちなみに『オズの魔法使い』は大昔に絵本で読んだことはありますが、映画を最初から最後まで通しで観たことはありません。多分。

 本作はジュディ・ガーランドの伝記映画ですが、内容は彼女の最晩年、イギリスのナイト・クラブ「トーク・オブ・ザ・タウン」での公演を描いたものとなっています。時代は1968年。彼女にとっての全盛期が過ぎ、今や薬に体を蝕まれて映画出演のオファーはなくなり、それでもステージに立とうとする姿を描いています。

 本作はジュディと観客の関係性についての映画だと思っています。それは冒頭から示されていて、本作は、いきなり子ども時代のジュディがこちらを向いていて、後ろからMGMのボス、ルイス・B・メイヤーに話しかけられているというシーンから始まります。ルイス・B・メイヤーの言葉巧みな話術でジュディは「向こう側」に行ってしまうのですが、そこから彼女の地獄が始まるわけです。スターになったは良いものの、過酷なスケジュールをこなすために薬を使って強制的に体系を維持させられたり眠らせられたり、とにかくもう滅茶苦茶です。そして回想の中で幼いジュディがいるのは全てセットの中で、ほぼ全てこのようなパワハラシーンばっかり。ジュディがケーキすらもまともに食べることができない子どもだったと描かれます。これを観てしまうと、ジュディが体を壊したのも納得してしまいます。観客はこの虐待を以て制作された作品を享受してしまっているのです(責任は無いけど)。

 ジュディは孤独です。色々な大人に囲まれて育ちましたが、本当に自分を愛してくれている人はわずかでした。親は虐待に積極的に加担し、寄ってくる大人は下心丸出し。恋人はアレな人が多く(良い人もいた)、仕方ないとはいえ子どもも取り上げられてしまいます。そんな彼女が、誰と心を通わすのか。それはファンでした。それが印象的に描かれているのがゲイのカップルとの交流と、その2人が「虹の彼方に」を歌い出すというラストです。余談ですが、ジュディはゲイのアイコンとしても扱われていたらしく、それを反映させたシーンだそう。あのシーンは、ステージを見に来ているファンは、少なくとも本当に彼女のことを愛しているんだ、ということをファン側から示したシーンで、分断されていたジュディとファンを繋いだものでした。あのシーンで、ジュディはファンからは本当に愛されていたのだと知り、それによって、辛かったであろう彼女の人生に少しだけ救いが見えたと思います。そしてこれはファンにとっても救いになることで、ファンはその人を好きで、応援することこそ、その人のためになるのだとも示されていると思います。彼女は、ステージに立っている時だけは、孤独ではなかったのです。

 また、本作の注目すべき点としては、やはり主演のレネー・ゼルウィガーでしょう。生前のジュディとはあまり似ていない彼女ですが、立ち居振る舞いや歌うときの姿勢で、完璧にジュディになりきっています。本作は彼女の独壇場です。

 また、映画的にも素晴らしい点が多く、冒頭の長回しとか、「虹の彼方に」を歌うまでの溜めの上手さとか、ジュディが歌っているときのカメラワークとかです。特に歌っている時が重要で、ちゃんと最初から最後まで映しているのです。ここが本当に素晴らしい。後はケーキの反復です。ジュディがラスト付近でようやくある程度心を通わせた人たちと食べる姿を観て、私は本当に感動しましたよ。
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