りっく

存在のない子供たちのりっくのレビュー・感想・評価

存在のない子供たち(2018年製作の映画)
5.0
今年ベスト級の驚異的な傑作。構成の妙、厳しくも滑らかで的確に登場人物たちにスポットを当てる語り口、そしてもはやどのように演出したか分からない子供の演技など、観客を最後まで微塵も飽きさせない魅力に溢れかえっている。

特出すべきは、10歳程度のレバノン人の少年・ゼインと、エチオピア人の乳幼児が、まさにそこに生きているとしか思えない阿吽の呼吸を見せる場面だろう。

本作は様々な角度から切り取ることが可能だが、人種を超えたバディもののロードムービーとしての魅力を、この題材の中でごく自然に突き抜けさせた点が驚異的としか言わざるを得ない。

特に空腹なのにミルクが口に合わずなかなか飲んでくれず四苦八苦するくだりや、泣き止んでくれずノイローゼ気味の少年が、おもちゃであやしたり、ガラスの反射で他の住人のテレビを映したりと悪戦苦闘する場面は、子育てをしたことがある身なら痛いほどよく分かる。

ただし本作が本当に厳しい作品だと思わせるのは、貧困でどうにもならない境遇にもかかわらず子供を次々に作り、地獄のような思いを強いる呪いの元凶である憎き両親と同様の、「親」としての決断と選択を10歳あまりの少年に迫る、その残酷さだ。

我が子を地獄から救うためにと、自分自身を自己肯定し、子供を売り飛ばした金でなんとか食いつないでいく地獄。そこで、例えば乳幼児が目を離したすきに歩いていかないように脚にロープを繋いだり、何かを引きずって大人たちの前を延々と歩いたりと、親と暮らしていたクソみたいな記憶が蘇るように描写がリフレインされるのもえげつない。地獄の先にはまた別の地獄しかないのだ。

そしてこのような作品だと、最終的には「親」の立場に自分も立ってみることで、両親との歩み寄りや和解が生まれそうなものの、主人公のゼインは決してそのような道を歩もうとしない点が素晴らしい。

大きく捉えれば貧困を生み助けの手を差し伸べない国家や社会が糾弾され、両親にも同情すべき余地は多分にあるのも確かだ。だが、それはあくまでも大人の論理であり、そんな事に生まれた瞬間から巻き込まれる子供はたまったもんじゃない。

だからこそ、子供を孕んだことを「神からの贈り物」と貧しき現実から逃避するような論理のすり替えを行う両親を、非難し憎悪し糾弾し続けるゼインの頑なな一貫性。それをむき出しにする冷徹な視線とハードボイルドな彼の佇まいに共鳴し、そして最後のこの世に存在する証を勝ち取った彼の笑顔に心から安堵させられる。
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