チーズマン

誰もがそれを知っているのチーズマンのレビュー・感想・評価

誰もがそれを知っている(2018年製作の映画)
3.8
『誰もがそれを知っている』
なかなかカッコいい邦題ですが、まさに誰もがそれを知っていることが発端で事件が起こり、そしてその結末の後にこれまたおそらく誰もがそれを知ってしまうことになるだろうというなんとも重たい話でした。

今作もファルハディ監督らしく、あくまで観客が心情を理解できる範囲でのちょっとした嘘だったり見栄を張ったりした結果、次々と事態が大きくなりそれにつれて登場人物たちの人間性があらわになっていくタイプの内面型サスペンスの作品で非常に見応えありました。

これまでのファルハディ作品はイランというイスラム教と欧米的な文化が混ざる国に暮らす一家庭とその限られた周辺で起こる比較的地味な(とはいえ重い)事件を描いていますが、今作は舞台もイタリアで登場人物も増えて群像劇になったことで雑に言えばいつもより派手な印象の作品になってましたね。

とにかく登場人物が多くて序盤は誰が誰だっけ?でした。笑
しかも全員あやしく見えてくるという。


舞台がイタリアということで、ファルハディ監督がイラン以外を舞台にした映画を撮るのはこれが2作目?だった気がしますが、しかも主演の2人はハビエル・バルデムとペネロペ・クルスという珍しく有名どころです。
そしてこの2人が実生活では夫婦だというのも、個人的にはそれが結構重要だった気がしていて、劇中の2人は単なる昔の恋人同士で今はそれぞれお互い結婚相手がいふ設定でありながらふとした瞬間のやりとりにどこか親密さを感じます。
要は愛があるんですよ隠していても、これがあるからハビエル・バルデム演じる
パコ言動を我々観客はつい追ってしまうんだと思います。

そして単に主演を有名俳優にして豪華にしました、ではなくて、ハビエル・バルデムという強い男のイメージのついた役者が、今までここまで内面がボロボロになった役柄ってあったっけ?と思うぐらい弱々しくなっていきます。
なのに、とにかく自分が解決するんだと周りの人間関係を壊しながら行動しまくる様子は見ていて不憫になってくるんですよね。
その落差のためのキャスティングにも感じます。


登場人物それぞれの一つ一つはなんてことないちょっとした嘘や見栄が取り返しのつかない事態へと発展していく中で人間性があらわになる、その人間性というのがダメな部分だけじゃなく良い部分もチラリと見えてしまう、しかもそれが裏表だったりするのがファルハディ監督の凄さだと思います。
ただ今作は群像劇という登場人物の多さで、全体的にぼんやりとして若干まとまりに欠ける印象を感じます。
まあ、これまでのファルハディ作品に比べればというレベルの話ですが。
2度鑑賞すればまた印象も変わるかもしれませんしね。


イランから離れたイタリアという舞台でも社会構造の問題が深く関係していたり、あとこれまでの作品の一家庭の気まずさの範囲が今作は親族や村人を巻き込んで気まずい顔する人が大量発生するところ。
そして序盤の派手な結婚パーティーで全員があんなに幸せそうにしていたのに、終盤のあの葬式みたいな空気の、全員のこの落差…。
舞台がイタリアになろうが相変わらず人間関係や上下の立場の変化やそれにともなう人間心理を上質なサスペンスとして描いていることには変わりがありません。

あれれ、これ書いてたらもう一度観たくなってきました。
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