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ミスター・ロジャースのご近所さんになろうのCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

3.5
【Staying Hundred Acre Wood】
この時期になると日本では「本年度アカデミー賞最有力」という謳い文句が至る作品に貼られる。

その伝統に則るなら、恐らく日本公開しないだろう”Won't You Be My Neighbor? ”にも「本年度アカデミー賞最有力」の貼り紙を貼り付ける必要がある。

本年度アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞は、ルース・ギンズバーグのドキュメンタリー”RGB”と今回紹介する”Won't You Be My Neighbor? ”の一騎打ちとなることでしょう。そして、”Won't You Be My Neighbor? ”が受賞することでしょう。

というのも、本作の監督モーガン・ネヴィルは今年、傑作ドキュメンタリー『オーソン・ウェルズが遺したもの』をも手掛けており、また本作自体がアメリカで大ヒット。2018年のベストに入れている批評家、映画メディアもいる程の強豪なのだから。両作のクオリティ込みで受賞することでしょう。

さて、本作はどんな作品かというと、子ども向け番組「Mister Rogers' Neighborhood 」 を手掛けたフレッド・ロジャースに迫った内容だ。日本でいうと、「おかあさんといっしょ」の製作者にまつわるドキュメンタリーって感じ。あまりにアメリカローカル話なので、この手のドキュメンタリー映画に強いアップリンクあたりが本気を出さないと日本公開は厳しいでしょう。

ただ、「Mister Rogers' Neighborhood 」 なんか知らない自分でもフレッド・ロジャースが素晴らしい人であることはよく分かる。そして観た後、心にジーンと来る作品であった。

フレッド・ロジャースはまるで、100エーカーの森に留まり続けたクリストファー・ロビンのような人物だ。少年のような心を持ったフレッド・ロジャースは、自由奔放に番組を作る。ステージに亀を歩かせ、自分も亀の真似をする、タイマーで1分計るだけに面白さを見出すのだ。ただ、一切の邪心がそこにはないから人々は彼に惹かれる。日本に例えるならば、黒柳徹子に近いチャーミングさがあります。

ただ、フレッド・ロジャースはただ少年をやっているのではない。彼はテレビ番組が嫌いだという。彼が番組を手掛けた全盛期、アメリカでは大量生産大量消費ならではの過剰な広告や番組が溢れていた。特にベトナム戦争に向けて、子どもに銃を持たせるCMが流れたり、アニメでは爆発シーンが多かったり、やたらと暴力的だった。ロジャースはその現状に哀しみ、徹底して子どもとの対話を大事にした。障がいを患った子どもも番組に呼んで、お話をした。

フレッド・ロジャースはピエロだったのか?

いや違う!

He is a marvel!
He is a hero!

彼はMARVEL(不思議)という魔法で子どもたちに明るい未来を与えようとしたヒーローだったのだ。

モーガン・ネヴィルという優等生が撮った切り口のみユニークであとは、ひたすらに誠実かつ親切に創り上げていく作風が本作に温もりを与え、鑑賞後は心がポカポカ温まる傑作でした。
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