1頭の牛から始まる不安、焦燥、恐怖、苦悩。親から引き継いだ名高い畜産場で突如発生した家畜伝染病。1頭でも感染が発覚すれば即座に他の牛も殺処分をしなければならない。感染したことを知っているのは自分と獣医の妹だけ。
以前国内でも口蹄疫が流行して感染が疑われた牛や豚が大量に殺処分された。食の安全を守るためのやむを得ない措置と言えばそれまでだけど、畜産家からすれば手塩にかけて育てた家畜が一瞬で処分されてしまうのは絶望の極みだったに違いない。
「何で自分の農場が」という納得がいかない気持ちと「どうにかしないと」という焦る気持ち。安寧な生活が脅かされた時に取った人間の行動とは。
実家が酪農家の監督だからこそ表現出来たリアリズム。でもこれって舞台が違っても同じ様な場面が結構ある(例えば仕事のミスや人身事故を犯した時とか)。損得で判断した行動の先は果たして幸かそれとも不幸なのか。「道徳」という優しい言葉だけでは整理が付かない作品でした。