このドキュメンタリーは時代が90年代以降でビデオカメラが普及した後なので、初めてジバンシィの本社に入っていく時や口論のシーンなどエピックとなるシーンが映像でたくさん残されているのでとても充実したものとなっています。
ただ、ここで描かれているマックイーンの人生のストーリー自体は決して美しいものでは無かったです。
人の期待を裏切らないために、自分の才能が衰えたと言われないために過剰なまでの仕事を引き受け続けていった結果鬱病になり、最後には自殺願望を口にするまで追い込まれていたのに誰も彼を助けることができなく、そのまま本当に自殺してしまったのです。
これは単純に過労死ですよ。
年に14回という常軌を逸した新作のショーの回数をこなしながら衰弱していく彼自身とそれを知っていながら救いの手をさしのべることをしないファッション業界。マックイーンが自殺した頃は他にも多くのファッション関係者が自殺をしましたが、人を追い込み続け、才能をむさぼり、最終的に死んだものは負け犬とし、生き残ったものだけが称賛と名誉を得るという当時のファッション業界というのは本当にクソだったとしか思えません。
「天才ゆえの苦悩の末死んでしまった」という単純な英雄譚にしないで、もっと身近なものとして彼の死を受け止める映画なのではないでしょうか?