ヒロオさん

沖縄スパイ戦史のヒロオさんのレビュー・感想・評価

沖縄スパイ戦史(2018年製作の映画)
4.5
少年ゲリラ兵、戦争マラリア、軍による民間人虐殺など、沖縄戦の知られざる事実に迫ったドキュメンタリー。

沖縄戦といえば、第32軍司令部の置かれた南部での激戦の印象が濃く、他の地域の被害についてはあまり注目されてこなかった。

本作は北部や八重山諸島に焦点を当て、なかでも特に、日本軍が民間人に対して行った加害の事実を明らかにしている。

北部では、現地の少年たちがゲリラ・スパイ兵士として利用され、生き残った人にも深い心の傷を残した。
八重山諸島の波照間島では、住民たちは軍の都合により西表島へ移住を強いられ、マラリアと飢餓の地獄へと陥れられた。

軍はあらゆる協力を現地の人々に強いた一方、彼らが負傷したり、敵に捕まりそうになった場合は、軍事機密の漏洩を警戒して処刑することも多々あった。

なお、米軍に殺された者に対する保証はあったが、日本軍によって殺された国民は、単に「戦死」と隠蔽され、保証はなされていない。

では、なぜ今になって、日本軍による民間人の虐殺が明るみになったか。
それは、現地の人の中には虐殺を手助けする立場になってしまった者もおり、その者たちが生きている間は語ることが難しかったためである。

軍が加害者で、国民は被害者というような単純な構造ではないところに、この問題の根深さがある。

現地の人々を主導したのは、沖縄各地に派遣された、陸軍中野学校の卒業生たちであった。
陸軍中野学校は、731部隊とともに日本軍の二大秘密組織だったとされる、スパイ養成学校である。
彼らは、国体維持のために現地の人を使い捨てるように教えられていた。

本作はさらに、その精神が現在の自衛隊にも残っていることを明らかにする。
「野外令」や「自衛隊法」、「特定秘密保護法」の記述は、自衛隊が有事の際、基地防衛や国体を優先することを示唆する。
つまり、今の法によれば、国民は守られるどころか、沖縄戦の時のように利用される可能性が高い。

今、南西諸島で進められている自衛隊増強とミサイル基地配備は、戦前から変わらず沖縄の人々を危険に晒している。

本作には、ここには語り尽くせないほどの衝撃的な事実や、沖縄の人々の悲しみや怒りが詰まっていた。

緻密な取材で成る素晴らしいドキュメンタリーだった。
1人でも多くの日本人に観てもらいたい。
ヒロオさん

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