このレビューはネタバレを含みます
是枝裕和や西川美和の助監督を務めていた広瀬奈々子の初監督作品。
息子を事故で亡くしてしまった哲郎(小林薫)が、川辺で自殺し損ねたシンイチと名乗る青年(柳楽優弥)を助けて自宅で介抱するものの、いつしか息子の代わりのような存在として、自分の木工所で働かせます。シンイチも背負った重い過去から解放されたい一心で、哲郎の息子のように振る舞って、別な人物としての人生を歩もうとしているかのようでした。でも、いろんな意味でシンイチの中で無理が生じて、結局自分の本性を明かして逃げ出してしまいます。
本当の息子じゃないことはわかっているのに、息子の役割をシンイチに押しつけてしまっている罪悪感。本当の息子への後悔を晴らすような入れ込み具合。息子を失ったことで味わっていた喪失感が、シンイチの出現によって癒されていくような悦び。シンイチも息子のように失ってしまうんじゃないかという恐れや不安。哲郎の絶妙に交差する心の動きを表現する小林薫が秀逸です。
そして、柳楽優弥の演技も素晴らしいです。どこか得体の知れなくて実体がない感じ。常に居心地悪そうに自分を偽っている罪悪感。哲郎の息子のようになることで、過去の自分と決別できるんじゃないかと揺れる心。過去の放火事件のことや自分の素性がバレていくんじゃないかと、オドオドしている挙動不審な感じ。絶妙な感情の動きがリアルでした。
哲郎はシンイチの嘘をすべて受け入れてとにかく優しく接してるんだけど、これって怒られるよりもキツいと思うんです。哲郎はシンイチという違和感のある存在を、なんとか調整しながら周囲にも馴染ませようと必死になるものの、やはり周囲の人たちにとってシンイチは違和感でしかなく、彼に入れ込む哲郎にも違和感を感じるのは当然だし、シンイチが逃げ出したくなる気持ちもわかります。優しさや善意が必ずしもいい効果をもたらすとは限らないってことです。哲郎とシンイチの境遇はまったく違いますが、共通しているのは現実を受け入れて、前に歩んでいかなくてはいけないこと。取り繕ってごまかすことはできないのです。