MasaichiYaguchi

夜明けのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

夜明け(2019年製作の映画)
3.8
是枝裕和監督と西川美和監督が立ち上げた制作者集団「分福」に属し、両監督作品で監督助手を務めた広瀬奈々子監督のデビュー作は主演に柳楽優弥さんを迎え、心に深く傷を負った者達の再起の物語を繊細に、静かに見詰めるように紡いでいく。
主演の柳楽優弥さんは、彼のファンはもとより映画ファンなら是枝監督の「誰も知らない」でセンセーショナルにデビューしたことは知っていると思う。
若干14歳でカンヌ国際映画祭最優秀主演男優賞を柳楽優弥さんにもたらしたこの作品は、家族の崩壊を何とか食い止めようとする少年・明の葛藤と足掻く姿を描いていたが、本作で柳楽優弥さん演じる主人公シンイチは、人に明かすこと出来ない秘密を抱えていて、そんな訳有りの彼を温かく迎えた人々に癒されながらも、常に揺れ惑っている。
家族の在り方を撮り続けてきた是枝裕和監督を師事する広瀬奈々子監督なので、このデビュー作でもその観点は脈々と受け継がれている。
それは、秘密を抱えて〝過去〟から逃げてきたシンイチを偶然助けた木工所経営者の哲郎が築こうとする〝新たな家族〟、本作はその〝在り方〟を巡る物語でもあると思う。
映画では仄めかすようにしか描かれないが、シンイチは実の家族との間に修復出来ない程の溝があり、そして彼を迎え入れた哲郎も家族に対して深い罪悪感を持っていて、未だに苛まれていることがストーリーの進展と共に浮き彫りにされていく。
生まれ育ちや年齢、理由も違うが、シンイチと哲郎は重い十字架を背負い、胸に開いた穴を埋め合うように徐々に心を通わせていく。
2人は〝補完〟することで〝新たな一歩〟を踏み出そうと考えるのだが、それは傷の舐め合い、御為ごかしに過ぎない。
それに気付いたシンイチがどう決意し、行動したのか?
ラストシーンでシンイチが向かおうとする先から響く微かな音が、冬の陽射しのように温かく心に残ります。