この作品での彼女は、ただものではない雰囲気を漂わせつつ、慎ましやかでかわいらしい。若者に祭り上げられながらもはしゃがず、静かに話す言葉にユーモアがにじむ。真面目でめったに笑わず、無駄なおしゃべりを一切しない、と周囲の人々は言うが、シャレのきかない人とは思えない。それは本人の素養もあるだろうし、パートナーの存在も大きいのだろうな(本当に素敵な夫婦！)。
そして然るべき時には、断固とした主張をする。普段の話し言葉と同じで、昂らず静かな様子が、かえって凄みを感じさせる。
母親からの教えがまた素晴らしく、しかもその教えを生涯守り続けたことも素晴らしい。「淑女たれ」「自立せよ」のふたつなんだそうだ。
「淑女たれ」というのは、怒り、悔恨、妬みなどのネガティブな感情に流されるなということ。
人間のおろかな行いというのは、たいていこれらの感情から生まれる。自分を振り返ってみても、アホな事したな〜ってことは、これらの感情にとりつかれてやってしまったことばかりだもの…。
自分自身の使命感と人々からの期待が合致すること、そしてそれを実行できることというのは、ものすごく難しいことなんだと思う。でも彼女はやってのけた。癌に侵されつつ、87歳でその命を終えるまで。私たちも彼女の切り拓いた道の恩恵に預かる者だ。尊敬と感謝を捧げます。
