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真実のHKのレビュー・感想・評価

真実(2019年製作の映画)
4.0
是枝裕和が監督した日仏共同制作「事実」
もちろん邦画ではなくフランスで撮られた仏映画であるが、仏監督が撮った映画ともまた違う感覚をおぼえた。
「言葉」が巧みに使われており、もしこの脚本をそのまま邦画で撮ってしまったら凄く臭い演技になってしまうのを、フランス人が飄々と演じることで様になっていた。その点で日本とフランスでは根本的な「言葉」の感覚が異なっていると思った。
大女優ファビエンヌを母にもつリュミール。米ハリウッドで脚本家として働きながら母の影から常に逃れることはできない。ファビエンヌの自叙伝出版記念を建前に、リュミールは同じくハリウッドで俳優をしている夫と娘とで母の元へと帰省する。
娘(リュミール)は幼少時代からファビエンヌに対して母親としての愛情を注いでもらえなかったという傷を抱えている。
大女優・ファビエンヌは歳をとり時代が変遷していくと共に俳優としての実力であったり、世間の潮流であったりが少しづつ変わっていくのを実感している。
そして大女優ファビエンヌが現在進行形で撮影しているSF映画「母の記憶に」を演じながら母娘について気付いていくというメタ構造。
一般的な母娘としては破綻してしまった2人が役者として、脚本家としての立場で寄り添い合うシーンが終盤にあり、その設定の上手さとレトリックの巧みさに感嘆した。
ここで念頭に置かれているのは「演じる」ことの特異さだと思う。
ファビエンヌは母である前に役者であり演じ続けなければいけない以上、常に自身の感情に対して客観視することを強いられる。従って彼女にとって「演じること」から逃れられない。
しかし演じることも結局はその人自身の身体性(=事実)に基づいた営為であり、演じることと本音とは常に相互的な関係にあると感じた。

この映画の見どころは何といってもファビエンヌ演じるカトリーヌ・ドヌーブの役者としての矜持や廃れていく哀愁と、母娘のやりとりの軽妙さと巧みさに尽きる。
是枝作品はある種の日本特有のものをすくいとる所に作家性のある監督だと思っていたので、こんな映画を撮っているとは思わなかった。凄い。
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