Masato

ビューティフル・ボーイのMasatoのレビュー・感想・評価

ビューティフル・ボーイ(2018年製作の映画)
3.4

ただただ辛い映画

ヒューマンドラマの皮を被ったホラー映画とでも言えよう。ドラッグに溺れていく息子をひたすら支えようとする父親の話。

思い出したのは、薬物映画の代名詞「レクイエムフォードリーム」やホラー映画の「エクソシスト」「コクソン」。レクイエム〜はそのまま救いようのないドラッグ中毒者の末路を描いていている。
コクソンの子どもが悪霊にかかり必死にそれを治そうと奮闘する父親が重なった。
エクソシストの当時のヒッピー文化でドラッグやセックスに目覚めていった子どもたちに対する父親の恐怖を悪魔祓いに置き換えたことで有名で、その雰囲気を彷彿とさせた。

上記の3作が思い出されたように、本作は見ていて辛い描写が多数。御涙頂戴の感動する映画だと思って見たら大間違い。ティモシーシャラメをアイドル視して見に行く人たちは用心すること。

前半こそ予定調和で動きがあまりないので、退屈するが、後半からはかなりキツイ描写が増えてきて、悪い言い方だが面白くなってくる。父親が特定の場所に訪れた時、その場所の過去の記憶のシーンがフラッシュバックされるように挿入されるのは良かった。

劇中ではなぜ薬物に溺れていったのかが明確には出てこない。ただひたすらに溺れていく姿を見せつけるだけ。裕福な家庭で両親こそバツイチで再婚しているものの、円満に暮らしていたのにも関わらず、薬物に溺れていった。

「万引き家族」でも、松岡茉優が演じた役が完璧に見えるような家族に嫌気がさしてしまって家出してしまった女子高生だったので、幸せな家庭でもそれが逆効果にいってしまうこともあるのかなと思った。

例えば、幸せで完璧あるが故に、それを壊そうとしたくなくて無理をしていたとか。それこそ映画評論家の町山さんが言っていたように、「親に良いところを見せたいがために無茶してしまっている」ということが、アメリカ文化特有のドラッグに行き着いてしまったのかもしれない。

劇中の父親が「こんな子だとは知りもしなかった」というのが考えさせられる。いくら家族であっても、本当の姿は見えない。あくまでも、ただの人間と人間だということなのか。私はティモシーシャラメと同じくらいの年齢だけれども、そう思う節はある。

人によっては息子に対してイライラしたり、全くもって感情移入できなかったりするかもしれない。それは、前述した通り、なぜ溺れていったのかが明確ではないからだ。父親の目線で見るならば、「もう疲れたよ」の一言。支えることに疲れて見放したい気持ちになる。でも、そう簡単には見捨てることはできず、重い鉄丸を引きずる気持ちだ。

双方の視点から見ても、やはり晴れた気持ちは訪れない。実話だからこその、現実を突きつけられる教訓映画だった。

相変わらず才色兼備なティモシーシャラメには嫉妬してしまう。見てくれなんて無視してしまうほどのありのままな演技力が素晴らしい。かつて40歳の童貞男だったのが、父親まで多彩に演技するようになったスティーブカレルも見事。違和感がなさすぎる。縁の下の力持ち的な存在の義母役モーリーティアニーも抑えめでもエモーショナルな演技が最高だった。
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