ライアン孤独な海賊王

銃のライアン孤独な海賊王のレビュー・感想・評価

(2018年製作の映画)
3.8
『"銃"と言う名前の悪魔との契約』

たまたま拾ってしまったリボルバー拳銃に魅了され堕ちていく若者の物語。

子供の頃に特撮ヒーローとかに憧れたことがある男性なら解ると思うけど、TVで観たヒーローがカッコイイ武器を振り回して悪をバッタバッタと屠る姿に「自分も同じ武器が欲しい!」って親に駄々こねた経験ないですか?
そして念願叶ってそのおもちゃの武器を手にした時の高揚感!まるで自分が本当に強くなったようなあの感覚。思えば脳内麻薬と言うものに初めて浸り、その心地良さと快感を覚えたのは、実はあの頃なのかもしれない。

そして大人になるにつれ、武器が人を殺せること、日常には武器になりうるものが溢れていることを知り、子供の夢だった悪者退治の爽快感はやがて現実で身近に存在する嫌なものを排除したい成敗したいという暗い願望に変容していく。悪を屠るのではなく、自分とは違う価値観や正義と呼ばれるものを駆逐するために、人は時として人を殺めることの出来る本物の武器を手に取ってしまう。
だがしかし、そうは言っても大抵の人は武器を手に取る前に、または武器を一度手にしても、それを他人に行使することなく終わる。
武器が持つ他者を容易く制圧するという甘美な支配力に溺れる事を本能的に恐れ、武器を手放し自ら遠ざけることで悪魔の誘惑から逃れようとする。それが現実の生活を守るためには必要だからだ。

だが、中には現実そのものに絶望し退屈した挙句、強い刺激のみを求めて彷徨うように生きている人も少なからずいる。

そういう人間の目の前にどうとでも自由にできる武器が無造作に転がっていたら?

実は自分も10代の頃、とある大好きな漫画の主人公が使っていた自動拳銃のモデルガンを買ったことがある。サバイバルゲームなどで使われるBB弾が撃てるものだが、バレルや銃の中身が金属製でズシリとした重さがあり、それを持つだけでその主人公に近づけたような気になってたものだ。

この作品の主人公は、手に入れた銃の持つ力に魅了され知らず知らず犯されながらも、最初のうちは周りの現実に救われてその力を行使することなく過ごしていたが、徐々に「人をすぐ殺せるものを持ち歩いている」という特別な高揚感に抗うことが出来なくなってしまう。

自分のような平凡な一般人がおもちゃのモデルガンを手に入れただけで気分が高揚しワクワクしてくるのに、本物を手に入れてしまったら?

これは何も特別な話ではない。そういう怖さがこの作品にはあった。

あと、事件を捜査する刑事役のリリー・フランキーさん。ジメッとした陰湿な緊張感がさらに恐怖感を増幅させる。表面上をどんなに取り繕っても「私は全て知ってるんですよ」と呟いてくるあのまとわりついてくる視線。演技として傍から観てる分にはすっごく好きだけどああいう場では対峙したくないな。


以下は余談。
観るまで全く知らなかったのだが、実は自分の自宅近く、なんなら毎日通勤で通ってる最寄り駅付近がロケ地になってたようで。よく利用してるスーパーとか100円ショップやら見覚えのある建物が映り込んでいてそれだけで親近感が湧いてしまった。