このレビューはネタバレを含みます
1時間25分、続く緊張感。
この映画の特徴は、なんと言っても狭い緊急通報指令室の中でのみ、物語が展開される、”密室劇”であるところではないだろうか。
登場人物は、主人公のアスガー、誘拐された女性イーベン、彼女の元夫ミケル、2人の子供のマチルデとオリバー、アスガーの相棒のラシッドなど。
様々な人物がアスガーと電話越しに会話を織りなし物語が展開していくのだが、アスガー以外の顔は誰も開示されないまま、この映画は幕を閉じる。
会話だけで展開される物語なのだ。
言葉だけのやりとりなのに、話している人物たちの情景が思い浮かぶのが、不思議である。
そして、度々電話がぶつ切りされ会話が途切れるため、想像力を働かせる他ない。最悪の展開を思い浮かべてしまうため、緊迫感が半端ない。
さらには、伏線回収も秀逸だ。
本当に誘拐された女性イーベンは被害者なのか?なぜオリバーのいる部屋に入っては行けないのか?
そもそも、タイトルの「THE GUILTY」とは、誰の、どういった罪のことを指しているのか?
最後までがハラハラが止まらない、すごい映画だ。
ところで、この映画からは、デンマークの個人主義的側面も窺える。
アスガーの上司や相棒のラシッドは、アスガーに対し「シフトは何時までだ?いつまで仕事してるんだ?」ということを聞いたりする。
また、司令塔のオペレーターの女性も「お互いの職務の範囲内で頑張りましょう。(自分の仕事の範囲外、つまり”電話を受け取って司令塔へ渡すこと”以上のことはしないで)」と言い放つ。
アスガーは(きっと)正義感の強い男性であり(あるいは罪の意識から正義を全うすることに固執している?)、
あの手この手で、オペレーターの仕事の範囲を超えて事件の解決に努めるのだが、そんな彼の姿勢は周りから少し浮いた印象を感じさせる。
仕事である以上、”必要とされていることだけをこなすべきだ、それ以外は君の範囲外である”という、とても合理的で効率的、そんな個人主義のデンマーク社会が垣間見えた。
これは、面白い。
日本では(仲間のためなら)自分の範囲を超えたことまで全てするのが美であり正義とされる傾向にあるからだ。
仕事は仕事と割り切るデンマーク社会。
基本的に残業などなく、夕方には家に帰れるそうだ。
正直めちゃくちゃ働き易いだろう。
しかし、勤務時間を忘れるくらい”熱く”働きたいと思ったとき、孤独を感じてしまうのではないだろうか。
アスガーはなぜ19歳の少年を正当防衛とはいえ、殺す必要までは無かったのにも関わらず、銃殺してしまったのか。
あんなに正義感溢れる行動のできる彼をそうさせてしまった、人生に対する嫌気とは?
そこには、デンマーク社会が慢性的に抱えている何か闇があるのかもしれない。