MasaichiYaguchi

イーディ、83歳 はじめての山登りのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

3.7
83歳の老婦人が初めての登山に挑む模様を描いた本作は、「そこに山があるから」とか「人生いつも青春」という言葉が軽く、安っぽく感じられる程、イーディの頑固なまでの姿勢や挑戦する中で目覚めた感慨が心の深いところに響いてくる。
イーディを演じたシーラ・ハンコックは当時、役柄同様に83歳だったとのことだが、よくぞこんなハードな撮影を乗り切ったものだと思う。
彼女はスコットランドで有名なスイルベン山に挑むのだが、この山は標高731mあって、日本で言うと有珠山クラスの山になる。
高齢者である彼女が一念発起したのには訳がある。
映画を観て、その訳を知った中高年の女性観客の大半が彼女に共感し、その挑戦にエールを送りたくなるような気がする。
本作のポスターやチラシに「いつだって“遅すぎる”ことはない」というキャッチコピーが出ているが、私を含めた或る一定年齢以上の者にとって、このコピーは“殺し文句”と言って良い。
だが反面、「年寄りの冷や水」「寄る年波には勝てない」という現実もある。
この作品が多くの観客の共感を得たのは、そういった諦念の入り交じった切ない現実も描いているからだと思う。
高齢者の初登山ということで、彼女のトレーナー兼ガイドとして孫位の青年ジョニーが寄り添っていく。
気位が高く頑固なイーディと今時の若者のジョニーとは波長が合う訳もなく衝突を繰り返すのだが、少しずつ二人は歩み寄って絆を築いていく。
この二人を演じるシーラ・ハンコックとケビン・ガスリーが素晴らしい。
感性を刺激するような美しい映像で描かれる二人三脚の登山は、どのような結末を迎えるのか?
この結末では、教える立場だったジョニーが逆にイーディに教えられ、そして彼女の眼前に広がるものに我々観客も登山の醍醐味だけでなく人生の意義を見せられているような気がする。