ディグ

ドクター・スリープのディグのレビュー・感想・評価

ドクター・スリープ(2019年製作の映画)
2.5
■キューブリックはきっと天国で舌打ち。

「ドクタースリープ」は
映画ファンならほぼ誰もが知ってるであろう
あのキューブリックの名作「シャイニング」の
続編として作られている。

結論からいうと前作は
”現実の殺人現場で肝試し”

本作は
”ディズニーのホーンテッドマンション”

そのくらい違って
まるで続編とは思えないど。

■キューブリックとキングの反目

これは有名な話なので知っている方も
多いと思うが、前作の監督キューブリックと
原作者のキングは反目し合っている。
それはもう、とてつもないケンカで、
キューブリック版の映画が納得できないキングは
その後、自らの制作で
TV版「シャイニング」を作った。
しかし映画には到底及ばず不評。

彼らが反目し合った理由…

それは
幽霊を信じるか、信じないか。
ただその一点。

前作「シャイニング」が素晴らしいのは
幽霊を全く信じていないキューブリックが
「この話が幽霊の仕業かどうかは見る側に任せる」
という視点を貫いている点。

それに比べてキングの原作には、
考える余地もなく幽霊が現れる。

この違いは相当大きく
原作小説なら成立しても
見える形で幽霊が登場してしまう
映画では途端にチープになるのだ。

本作では終盤で
オーバールックホテルが舞台となるのだが
前作では考えられないほど
幽霊たちが大活躍してしまう…。

■ドクタースリープはありかなしか?

この映画がありかなしかでいえば
まぁ、ありっちゃあり!
作り込みは凄いし、見応えもあるし、
前作と比較しなければ、とても面白い。

しかし続編である以上
比べてしまうのは仕方ない。

本作では前半に超能力(シャイニング)に
焦点を当て、前作のホラー映画的な
雰囲気よりも、全く違うジャンルで
勝負しようとする意図が伺える。
正直、この前半から中盤パートまでの方が
断然面白く、後半に舞台となる
オーバールックホテル(前作の舞台)
に行ってからはひどく退屈。
ただのファン感謝祭。

「あーあのシーン!」
的なファンへのアピールが多く、
再現度には感動するが
斬新さや、面白みは少ない。

前作のコック長
ディック・ハロランさんや
幼少期のダニー。
そして父ちゃん。
何より母ちゃんのウェンディーの役者は
顔こそ似ていないが、
声がクリソツで凄い!

作り込みこそ凄いものの
なぜかイマイチ楽しめない…。
その大きな理由は
遊園地のアトラクション並みに
ズケズケと登場する幽霊たちのせいだ。

前作のように我々観客が
「これは幽霊なのか、それとも人間の狂気なのか」
と考える余地など全くない。

■キューブリックを侮るべからず。

考えてみればキューブリック監督が
至極の名作「2001年宇宙の旅」を
作った後にも、今回と同じようなことがあった。
「2001年宇宙の旅」の原作者
アーサー・クラークは映画のヒットに味をしめ
「2010年」という続編を制作してしまった。

※アーサー・C・クラークは
「2001年宇宙の旅」の原作者と
言われるが、厳密にいうと
映画が先に公開され
原作小説は同時進行で書かれた。

さてその続編「2010年」が公開され時に
キューブリックはどう思っていたか?

「あいつらは全て説明して台無しにした」
と嘆いていたのだ。

キューブリックの映画作りの信念は
”説明しすぎないこと”なのだ。
彼は説明してしまえば
映画から魔法が消えてしまうと考えていた。

■キングが続編を作った理由

さて本作の話に戻るが
「シャイニング」の原作者
スティーブン・キングは
なぜ本作「ドクタースリープ」を
今更作ったのか?

それは前作「シャイニング」で
ダニー少年を追い回す
ジャック・ニコルソンが演じる
トランス父ちゃんが、
スティーブン・キング自身だからだ。

キングは以前、重度のアルコール依存症で
そのトラウマをこのキャラクターに
反映させているのだ。
だから「シャイニング」には幽霊が登場し、
その霊体が父ちゃんに憑依し
愛する息子を苦しめていたのは
”幽霊のせい”
としたかったのだ。

つまり「シャイニング」は
キング自身の贖罪の物語で
「息子よ苦しめてしまってごめんな!」
というメッセージがなければ
キング自身が納得できないのだ。

しかしシニカルで現実主義者の
キューブリックが
その幽霊設定を否定してしまった。
キングとキューブリックの反目は
そのせいなのだ。

とはいえ本作「ドクタースリープ」は
ここまではっきりと幽霊を出す必要はなかった筈だ。
幽霊がいるかどうかは、もっと観客に任せられる
そんな演出にできた筈だし
監督、脚本のフラナガンは
世界中にいるキューブリックファンを
唸らせるどころか
敵にしてしまったかもしれない。

■続編としてどうあるべきだったか?

ここまで本作に否定的な意見を
書いてしまったので、
それじゃ一体どうすべきだったか
自分なりに考えてみる…

前作とは全く違った視点で描く前半部分
”超能力(シャイニング)に
スポットライトを当てた前半〜中盤”
は、さすがキング原作なだけあって
素晴らしかったし、
後半にオーバールックホテルへ行く
ファンサービスもそのままでいいだろう。

---ここからネタバレを含みます---

ただ一点!
悪のボス、ローズを
幽霊に殺させるというシーンは
はっきり言ってチープすぎる!
怖くねーし!むしろ笑っちゃった!

あくまで幽霊はふんわりとした存在として
前作の出し方を踏襲したまま
主人公たちとの戦いで決着をつけるべきで
観客が考える余地もなく
幽霊が登場してしまう演出は
映画としては稚拙なのだ。

ローズに群がる幽霊たちなんてのは
それこそディズニー作品ばりに
子供向けの演出で
シャイニングの続編としては最悪だ。

■結論

前半部分の超能力合戦は
単体の映画としては素晴らしい。
さすがキング。
しかし後半の幽霊たちの描き方は子供向け。
いくら原作のキングが意図しても
監督のフラナガンが否定すべきポイント。
しかも彼は自分で脚本を書いているのだ!
キューブリック作品を
リスペクトしているならありえない。

ってことで丁度半分の2.5点。
ディグ

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