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海獣の子供のEegikのネタバレレビュー・内容・結末

海獣の子供(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

原作マンガ未読

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エンドロール後のパート要らねぇ〜〜
「いちばん大切な約束は、言葉では交わさない」って、まさにそうやってモノローグの台詞(言葉)でつまびらかに語ってしまってるじゃん…… こんだけ映像の力があるんだからそれを信じようよ

エンドロール前の締め(坂道でハンドボールが転がってきて、最序盤の怪我させてしまった女子が再登場する)はめっちゃ良かった。しゃがんで靴紐を結んでいる体勢から、ボールを持って立ち上がるのをカメラが激しいティルトで撮って背景が地面→町→海→空と一瞬で移り変わるのが最高。

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作画、というか映像全般ずっとすごかった〜〜
顔のクローズアップがかなり多用されていたけど、「顔」で魅せる力もすごくて全然退屈にもならなかった。もとの五十嵐大介のデザインが良いのもあるのだろうけれど。
町中を駆ける主人公を正面から撮るシーンとか、周りの風景の動き方が3Dゲームっぽくてヤバかった。
ウミ君やソラ君に手を引かれて波打ち際から海のなかへと駆け出すいくつかのシーンなど、人物芝居の作画も素晴らしい。もちろん海のなかで泳ぐのもいい。
アニメ映画の終盤にデカい鯨が出てくるのはもはや陳腐なあるあるになってしまっているけれど、本作ではその陳腐さをまったく感じさせない。作画でねじ伏せられた。潮の描写がひとつのポイントなんだろう。

というか、これも江ノ島アニメだったのか……
『きみの声をとどけたい』『つり球』(あとアニメじゃないけどエロゲ『アオナツライン』)と、ここ最近立て続けに江ノ島を舞台にした作品に触れてきているが、マジで江ノ島強化期間になってしまっている。


お話としては、ひと夏のガール・ミーツ・ボーイ(ズ)ものに、海や宇宙といった〈自然〉をテーマにした思弁的SF(?)チックなファンタジーだととりあえず言えよう。

まず、主人公の少女ルカと、彼女が出会う海育ちの少年ウミとソラ、という三人の関係はなかなか良かった。もちろん今作は狭義の恋愛劇ではないので、三角関係とかではないのだけれど、ソラがキスをしたり、ウミに人工呼吸しようとしたりと、露骨にセクシュアルな行為を匂わせてはいる。そして、ルカの胎内に「隕石」が宿され(妊娠)、なんか終盤の海の「お祭り」がはじまって、老婆デデ(CV.富司純子/サマーウォーズの栄おばあちゃんのひと)が精子がどうこう受精がどうこう…とペラペラ語ってもいたので、恋愛というよりは、生命および宇宙のシステムとしての〈生殖〉行為についての物語だったということは明らかだ。
ほかの一般的な青春アニメ映画と比べてストーリーがわかりにくいのは、〈愛〉すらも削ぎ落とした純粋な〈生殖〉=〈自然〉の摂理がテーマとなっているから、という面は大きいと思う。

ただ、そういう本作のテーマ/思想に関しては正直とくに面白みは感じない。思想が個人的に好みじゃないとか、間違っているとかではなく、凡庸で薄っぺらいと思った。
「人間だって星の欠片で出来ているから宇宙の一部」とか、海洋学者が唐突に暗黒物質について一席ぶち始めて「人間はまだ宇宙のほんの数パーセントしか分かっていない……」とかいうそこらへんの大衆向け科学啓蒙雑誌みたいなことをさも深遠で高尚なことのように話すのとか、気恥ずかしいよ。(そういえば、宇宙の質量(=エネルギー)の大半を占めるのって暗黒物質じゃなくて暗黒エネルギーなので単純に言ってることもややズレていた気がする。どうでもいいが)
「人間も含めて自然/宇宙なんだ!」的な思想は、「はい、そりゃあそうですけど…」としか反応できない。このテーマを取り上げるなとは言わないけど、特に深くもなんでもないものをさも大層なコトのように恥ずかしげもなく主張/表現するのはなんだかなぁ…… 映像表現が素晴らしいだけに勿体ない。
もちろん、五十嵐大介自身がそういうテーマを一貫して描いている作家なのだろう(『魔女』くらいしか読んだことないけど)から仕方ないのかもしれないし、かといって独特な画風なんかは明らかに原作から引き継がれている魅力なので、原作チョイスが悪いのだとも言い切れず、なんとも……。

というか、わりと素朴な自然崇拝モノではあるのだろうけど、そこでの〈自然〉のすごさを根拠付けるものとして〈自然科学〉に頼りがちなところはあって、それってどうなんだ?と思わなくもない。
要するに本作は「自然vs近代科学文明」のような典型的な二項対立には乗っかっておらず、自然と対置されて批判されがちな科学すらも自然の魅力を引き立てるために運用されている。これはこの作品の独自な点かもしれないし、「すべてひっくるめて自然/宇宙なんだ」という根本思想とも合致しているので評価できる気もするんだけど、その一方で、「結局〈科学〉に頼らないと『すべてひっくるめて自然』というテーゼに説得力を持たせられないんなら、〈自然〉って大したことなくない?」とも思ってしまう。

何度も言うように映像のクオリティがえげつないので、しょーもない暗黒物質の小話とか露骨な受精/妊娠/生殖のメタファー説明とかヒトの記憶と宇宙の銀河の形成過程の類似の提示とか、そういう薄っぺらいロジックを経由せずに、近代合理主義や自然科学を超越した崇高で理解不能なものとしての〈自然〉を、〈宇宙〉を、映像による語りでみせてほしかった、というのが正直なところ。ゴーギャンも擦り過ぎだって……

この論点では、海洋学者のオトナたちの位置付けなんかをちゃんと吟味したほうがいいのだろうけれど、正直彼らが何をやっていたのかあんまり分かってないし興味もないので掘り下げられない。。。


他に気になったこととしては、ウミとソラという2人の少年が出てくるわりには、(一般名詞・自然物としての)「海」と「空」の描写に釣り合いがとれていなかったんじゃないの?と思う。つまり、映像における「海」の存在感に比べて「空」はあんまり印象に残っていないということ。海が強すぎるのもあるけど……。
ルカにとってソラよりウミのほうが大事そうだったから、そうした主人公の主観の反映であるからむしろ整合的だと擁護することは出来るかもしれないが……。
あと、「海/空」という二項対立のほかに、「海/陸」という対立軸もあるのがややこしい。なんか最後のほうで「この世界には良いことと悪いことがちょうど等しくできている……海の生き物と陸の生き物が両方いるのと同じように……そしてそれは混ざり合う……」(うろ覚え)的な台詞をジム博士か誰かが喋っていたような気がするし、定期的に海に身体を浸さないといけないという少年たちの設定も「海/陸」の枠組みが前提にある。だから、「空」よりも「陸」のほうがこの作品にとって重要な存在に思えるので、ソラ君じゃなくてリク君とかのほうが良かったのでは??とか考えちゃった。
・・・あーでも主人公の「ルカ」が陸の象徴なのか……? 子音は共通してるし。でもルカって「光」じゃなかったっけ……? 肌を乾燥させるものってことで光と陸は繋がるか。
あ、ソラが隕石の欠片をルカに口移しするから、「隕石」という空=宇宙から来たものを主人公に受け渡す役割として「ソラ」である必然性があるのか。いま気付いた。


あと言いたいことは……プロットというか脚本?というか、わりと分かりにくい理由のひとつとして、場面の切り替わりが唐突だったり、全体を通して主人公が自分の意志で行動を起こすことで話が展開することが少なかったりと、構成の散漫さはあると思う。いつの間にか町を離れて田舎や謎の浜のほうに移っていたり、海に潜ったと思ったら陸に上っていたり。 こうした点はしかし個人的には嫌いじゃなくて、むしろ本作独自の雰囲気を演出するものとして好ましい。

エンドロール後に、夫と別居していた母親が第二子を出産する(母に頼まれてルカが新生児のへその緒を切る)シーンが映されるのは、まぁ宇宙的な次元での〈生殖〉がメインテーマの作品としてすごく納得はいく。
ルカがへその緒を切るときに「命を断ち切る音がした」と独白するのは、単純な生命賛歌ではなく、むしろ生命=自然=宇宙のおぞましい「業」に迫ったものだと解釈することもできよう。ただ、そういう思想だってわりとありふれているとは思うので(『なるたる』とか)評価は出来ない。


あーあと、劇伴も良かった。スタッフロールで久石譲なんかーいw となったけど。すぐ上に書いたとおり、わりと散漫なプロットなのを散漫なままに音楽面で支えていたと思う。下手に盛り上げすぎていなくて好ましい。(DVDの特典映像で久石譲のインタビューを聞いたら「キャラの心情にも状況にも(劇伴を)付けなかった」と言っていて、やっぱりな〜なるほど〜と得心した。)
主題歌に関してはノーコメントで。持ち上げたくはない、とだけ。
声優キャスト……デデの富司純子さん大好き。デデも好き。あとお母さんの声すごく聞き覚えあると思ったら蒼井優だった。『花とアリス殺人事件』!!!


言い忘れてた。水族館内の雰囲気良かった。バックヤードというよりは、バックヤードに入る扉がある展示フロアのカット(何回か出てくる)。
「水族館が好き」とさも自分に酔っているかのように言うひとが嫌いなので、水族館自体にもそんなに良い印象は持っていないのだけれど、このカットでは水族館内の「雑踏」というか、小声で人々がコソコソ話し込んでいる、やや不快で不穏な雰囲気が見事に表現されていて、「これこれ!!水族館ってこれだよ!!!」とテンション上がった。
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