まりも

海獣の子供のまりものネタバレレビュー・内容・結末

海獣の子供(2018年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

「原作漫画のひとつの解釈」としてとても愛せる作品だった。


大抵、分かり易くされてしまうもののほとんどを憎んでいるし、省略されてしまうものを残念に思う。だが同時に、分かり易さがなにものにも勝る時があり、良し悪しという個人の尺度は別として、圧倒的に「強い」時があるということを理解している。そしてその「強さ」に猛烈に惹かれることがあるし、その感覚は失いたくないなと思っている。

この作品が、そういう意味でとても「強い」作品であったのは間違いないと思う。原作とはほんとうに別物だけれど、攻殻機動隊の映画版と同じで、いち解釈として全力で愛せる!というものだった。



色彩表現・水の表現・線画表現・音楽の使い方、どれを取ってもとても素敵だった。久石譲!お久しぶり!会いたかった!!

水の表現が好き。水の表現が好きと思えた監督や製作スタッフは、作品そのものも好きになることが多いので、覚えておかなければ…と思った。
塊と濃淡と光で表現される水。立体的な宇宙の表現や、鮮烈な空の表現もとても好きだった。

また視点転換が多く、映像酔いするかもしれないと思っていたが問題なかった。
目を皿のようにして、あらゆる場面を焼き付けたいと思った。


⬛︎ 原作と映画の話

原作先行だったため、これは読んでいなかったら(=作中におけるアイコンを認識していなかったら)分からない、と思うものは多かった。例えば鯨に宿る女神。

だが恐らく、あれこれ頭で考えながら観るのではなく、咀嚼は後にして作品環境を浴びるものだったのだと思う。その方が、感覚的理解も納得感も得られ易い作品である気がする。

また、比喩表現がとてもとてもとても多い。非常に認識し易い例としては、琉花の兄弟がいつできた子なのか、というところ。花・ミツバチという受粉の分かりやすい比喩(もはや直接表現かも…)が用いられていて、あっ、この時だったんだ、と納得した。

1回では認識できない比喩表現・原作を参照してようやく理解できる表現が、きっとたくさんあるのだと思う。描かれなかったことが多かったと感じたが、直接描かれていないだけかも、と思ったので、DVD等でゆっくり何度も観たいなと思う。


私はどうしても、母親礼讃的な描写があると心のシャッターが下りてしまうのだけれど、原作は「役割」というか、ひとつの「器」としての「母親」の表現に徹していたように思う。

例えば海で行方不明になった琉花を、加奈子さんが探しにゆくシーン。

原作では加奈子さん自身の背景が掘り下げられ、「加奈子も役割を果たすために琉花を媒介として海に呼ばれていた」のだな、と理解していた。
けれど映画の加奈子さんの行動は、「母親だから、子供のことは無条件で心配。だから琉花を探しに行く」といったもののような印象を受けた。単純に、説明がなされていなかったからそう感じてしまっただけかもしれないけれど。

原作の好きなところは、親子の情・師弟の愛憎・友情以上の同族意識…等がとても淡白に描かれ、それら「人間(個の生物)の思惑」とは別次元にある宇宙(や海や生物の総体)について、分からないなりにたくさんの解釈が与えられてゆくところ、だった。
なので正直、あっこれは省略か(´・ω・`) 尺……とは思った。

残念だったけれど、時に分かり易さは何者にも勝るから、これはこれでありなのかなと思いました。

いやでも、むちゃくちゃに分かり易い作品かと問われるとそうではないと思う。

“(原作比)(描かれる内容が限定的であるため)(人によっては)分かり易い(かもしれない)”くらいの印象。
もともと色々な解釈のできる作品だと思うので尚更。

・神話のくだり
・生命の起源と至る場所のこと
・宇宙は人間に似ている、こと
・アングラードの「言語」認識の話
・加奈子さん(琉花の母親)の話

このあたりの、個人的にここが観たかった!というところは、だいたい説明はなされなかった……。
気持ち悪くなるほどの画面圧や、ゾッとするシーンもだいぶマイルドになっていたので、観やすかったのは間違いないと思う。平日夜に観ても大丈夫だった。


わたしは原作のアングラードがとても好きだった。特に言語認識の話。ああそういう世界を見ていた時期、誰にでもあるのかもしれないと思った。あのシーンが漫画で描かれていたからこそ、神話や世界についての説明がすっと入ってきた。

彼の、世界を知ることが何においても最優先となるところも、人間味がないようでとても「人間」を感じるので、好きだった。
その辺の描写はほとんどなかったので、映画のアングラードは原作の彼とは別人であると言える。かなり好意的な解釈ではないかなと思う。

それでも、映画の彼は彼で猛烈に好きになった。何かに夢中になる黒髪の長髪の青年の、猛烈な色気。彼の長い髪と瞳の表現が好きだった。Happy birthdayのシーンも。アングラードは映画でも「特等席」には居られなかったが、少なくとも生きて「祭り」の日を迎えていた。それだけで胸がいっぱいになった。アングラードのファン増えてくれ。
まりも

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