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マチネの終わりにのmのレビュー・感想・評価

マチネの終わりに(2019年製作の映画)
5.0
大傑作。今の日本の映画監督で最も『映画』を作れる監督って、やはり西谷弘監督だと思う。うまく言えないのだけど、「昼顔」に続きとにかく圧倒的に『映画』。
粗筋だけ読めばベタで世俗的に思える物語も、西谷組の手にかかれば品格ある流麗な『映画』としてスクリーンに映し出される。痺れる程に完璧な映画話術を堪能する愉楽。その話術が観客の心を掴み、浮世離れした登場人物達の心の揺れを増幅し的確に観客の心に届けていく。完全なるメロドラマ映画。あぁ本当に最高。ていうか「昼顔」に続きまた過小評価され過ぎてる・・・・・


役者としての福山雅治に正直あまり良さを感じた事が無かったけど、今回は過去最高の素晴らしさで、終盤に見せる表情の芝居には心揺さぶられた。前半で2度ある最近あった面白い話を喋る所では、演技を超えた本人の人間的魅力も透けて見えた。クラシック・ギターの演奏も流石です。

石田ゆり子も間違いなく過去最高のベストアクト。彼女の表情の芝居の素晴らしさが間違いなくこの映画の大きな力になっている。それに改めて本当に綺麗な人だなと思うし、その美しさがフィルムによく映える。

2人を引き裂くマネージャーは描写の少なさや彼女がしでかす事を考えるといくらでもテレビドラマ的な『嫌な女』になりかねない役だったと思うが、マネージャーを演じる桜井ユキの圧倒的に繊細で力強い演技によって(そしてそんな彼女の演技を的確に切り取る西谷組の手腕によって)この女性はそんな平面的な『キャラクター』ではなく、弱くて強かで脆くて、しかしたった一つの愛だけで矛盾した人生を貫く複雑な『人間』になった。影のMVPです。
この規模のメジャー大作に4番手(いや実質3番手)での出演、これまでの桜井さんのキャリアを考えると大抜擢だと思う。普通の日本のメジャー映画なら売れてる若手人気女優だったり大手事務所が売り出し中の女優を当てがう所を、人気・知名度関係無く実力と役に合う事だけで彼女を選んだのは監督の強い意志らしい。その采配は完璧に功を奏した。そして彼女自身もまた過去最高の演技を披露している。「リアル鬼ごっこ」で光っていた演技力が、ようやく最大限活かされた。

桜井ユキの大抜擢もそうだが、品田誠や森岡龍がさり気なく顔を見せている辺り、やはり西谷監督はインディーズ映画や単館系映画をよくチェックしているのだろうか。


今回映画的な演出のキーになるのはエレベーターと岩。あの冒頭に映る岩の上に乗った木の葉が風でふっと飛ばされる時、その的確な意図にすぐに引き込まれた。


やたらイカれたロマンチックな事をキザなセリフ回しで言う主人公に辟易する人もいるだろうけど、こういうアーティストって実際こういう喋り方をするので、それはもう仕方ないのです。

浮世離れした人々の物語を35mmフィルムの質感と落ち着いた色調が優しく『映画』のリアリティに定着させる。
普段はCM撮影界の重鎮ながら豊田利晃監督「モンスターズクラブ」「I'M FLASH!」や「生きてるだけで、愛」で映画も手がける重森豊太郎氏の撮影は今回本当に素晴らしい。フィルムへのこだわりが映画の力になっている。
またこれは監督の功績だろうけど、カット割が完璧だった。


男性だけでなく女性側も40代の(しかもどうやら女性の方が歳上らしい)、大人同士の恋愛映画は日本映画には貴重なので、これを機に増えてほしい。


ラストのコンサート・シーン、普通の映画ならすぐに相手にカットを切り返す所を切り返さずに主人公の表情の変化とカメラワークだけで描き切るストイックさに感嘆。溜めた後で切り替えした先の彼女の表情も見事。
そして最後の豊潤な視線劇(あの噴水周りの長い引き画、完全にテレビで観る事など想定していない)とラストショットの圧倒的鮮烈さ。
あぁ、これが映画だ。素直に感動して泣いてしまった。
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