戦争政治の手練れと天才数学者が正しく間違う物語。
昭和8年。太平洋戦争開戦前夜の日本。海軍は軍備増強のため「軍艦」の建造が必要であると考えた。有力案は「平山」の考える”超大型大砲を搭載する超大型の戦艦の建造”。これに対して「山本」は今後は戦闘機による戦いが重要であると唱え”空母の建造”案を提出する。
この時代であれば、超大型戦艦を建造して超大型の大砲で敵の軍艦を攻撃できる軍艦を建造するのがスタンダードな考えである。対する山本はこれを時代遅れとして、何とかして空母案を通すため、天才数学者である「櫂」に白羽の矢を立て、平山案の胡散臭い建造見積の不正を明らかにして平山案を失脚させる情報を得るように指示をする。
果たして櫂は、平山の建造見積の不正について”役に立たない”と言われる数学の力で暴くことができるのか。そのさらに裏にある平山の本当の目論見とは。
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紀元前に生きたアルキメデスもまた、櫂同様に争い事に巻き込まれてはそれに協力し、ある日、敵であるローマ兵に数学の計算を邪魔されてこれにキレてしまって兵士を激高させて殺されたと言われている。
アルキメデスは円周率を「3.14」まで正確に計算した。「直径と円周の比率は”だいたい”3」で十分だったこの時代に、円周率の精度に何の意味があるのか。いまでは少数以下3桁では到底精度が足りないので、アルキメデスはいったいどこまで先を見ていたのだろう。感謝しかない。
櫂は、数学というものが世の中の役に立っていないと考えているようですが、とんでもない。もちろんこれは全くの間違いです。
当時の日本は、戦争をしたかったのかしたくなかったのか。いったい誰が敵なのか。国の戦意持続はなぜ必要なのか。批判ではなくて問題提起の映画だと思いました。現代でもこのスキームは水面下のいたるところでうごめいていると思う。
不正を問わずに強硬に進めようとする平山。
「巨大戦艦を建造すれば、その力を過信した日本は必ず戦争を始める」という平山案に反対する山本。
間に入って翻弄される数学者の櫂。数学の力で平山の秘密に迫った櫂。平山は観念したように心を開く。
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平山の心中吐露シーンには、思わずエウレーカ!と叫びたくなる。櫂も平山も、そんなに頭が良いならば、もっと別な活躍をしてもらいたかったと悔やまずにはいられない。