龍Q

この世界の(さらにいくつもの)片隅にの龍Qのネタバレレビュー・内容・結末

4.8

このレビューはネタバレを含みます

8/6を迎え、改めて観返したくなったため鑑賞。原作も含めて数え切れないほど観た本作だが、今回も不朽の作品だなと感じた。

(さらにいくつもの)はクラウドファンディングによって製作された完全版で、2016年に公開された『この世界の片隅に』において映像化されなかった原作部分を完全にアニメーションに起したものであるが、久しぶりに観てみると改めてオリジナル版『片隅』が全てを描かずとも(さらにいくつもの)に繋がるように余白を設けて作られているなと感心した。

(さらにいくつもの)の中枢を担う朝日遊郭でのすずさんとリンさんとの出逢い。このシーンはオリジナル版では偶然すずさんが迷い込んだ際に出逢うだけであったが、すずさんが右手を負傷した際などに初見では違和感を覚えるようなリンさんについての回想がある。それが(さらにいくつもの)ですずさんとリンさんが度々交わり仲を含めていくうちに遊郭がどのような場所であるかや、リンさんと周作が出逢っていた事実などをすずさんは知ることとなる。その後に北條家に水原が泊まりに来るシーンが続くのは非常に秀逸。オリジナル版ではすずさんと水原が同郷のよしみで仲睦まじく関わっていることを周作が複雑に思うシーンとして纏まっているが、事前にリンさんと周作の関係をすずさんが知ってしまうことで、納屋に締め出されてしまったすずさんは周作の行動と自分の受けた行動に矛盾が生じて余計に腹を立てている心理状態がわかる。(その心情を踏まえた上でも水原の前で周作に対する愛を認識する展開も素晴らしい。)

また、ラストのシーンは原作同様北條家の引きで終わるのだが、ここで家の前の木が倒れて屋根が大破していることがわかる。これが9月の台風で倒木したシーンで解説されたりとそのようなオリジナル版を補完するカットが無数に散りばめられ、しかしこの作品の特徴である「何気ないシーンに先々の伏線がある」ポイントを全く違和感のない状態で増やすことに成功している。改めて秀逸な原作だとも思えたし、完璧なアニメ化だなと思えた。

リンさんの登場が一部だけであったオリジナル版でも存在したED後のクラウドファンディング参加者のクレジット下で描かれた口紅で紡がれるすずさんとリンさんの物語。ここのシーンも(さらにいくつもの)の終盤で本編に逆輸入されて綺麗に描かれており、その美しさのあまり涙が溢れた。
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