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この世界の(さらにいくつもの)片隅にのsomaddesignのレビュー・感想・評価

5.0
2020年、映画初め。

大大傑作「この世界の片隅に」に、30分超の新エピソードが追加された版……かと思いきや、細かくいろんな増補・改変が施されていて思った以上に違う味わいの映画になっていた。セリフも所々変更されててるし、なんなら音楽・音響は全部再設計されてないか?


オープニングの青空にタイトルが浮かび、コトリンゴの「悲しくてやりきれない」が流れると自然に泣いてしまう体になってしまった。思い入れが強すぎて、自分の鑑賞中の心の上下動に自分で付いていけない。

追加されたシーンは水原哲やリンさん・テルさんら周辺の人達が中心なのに、ググッとすずさんの内面が浮かび上がるのが面白い。よりすずさん中心の映画になってるっちゅーか。

会った事もない男に見初められて嫁いだら、足の悪いお母さんに代わって労働力を期待されてのこと。不慣れながらに頑張ってたら義姉が出戻って「もう帰ってよし」とイヤミを言われる始末。
跡取りを期待されても栄養失調でままならず、やっと出来た友達は実は旦那の元カノ。自分は果たせなかった縁談の代用品と知ってしまう。
半ば騙されるように嫁にされ、周囲公然の秘密を「言わぬが花」と良いように利用される構図は、戦時下でいいように虐げられ犠牲を善とさせられていた市井の人々の暮らしとも重なる。
友人たちを失い、腕を失って絵を描く事も奪われ、味方であるはずの夫は元カノへの未練を断ち切れているのか分からない……。結構な地獄絵図だな、これ。

ことほど左様に、原作通りの展開・要素で知ってた話のはずなのに、すずさんの内面の波立に自分の同調して乱高下してしまう。
ボーッと生きていられなくなってしまったすずさんの話とは別に、一人の女性が旧来の価値観・世界で自分の幸せや居場所を手探りで探す話に変わった。


映画「この世界の片隅に」単体では不可解に思える部分が大幅に補完されたおかげで、全体像やすずさんの抱える苦しみが理解しやすかったり、周作さんが哲にすずさんを差し出す動機も見えてくる。
恋愛描写が増えたせいで戦争の悲惨さが薄まったかと思えばそうでもなくて、混乱の時代に翻弄される名もない人達の苦しみや逞しさが際立って見えた。すずさんでいえば、前作より大人っぽく成熟しつつある女性の戸惑いにフォーカスされて感じた。のん史上初のベッドシーンもあるし。


片渕監督の執念で描きこまれた世界は、街並みから人々の営みまでアニメってより記録映画のレベルに達してる。監督がすずさんについて話すときの口ぶりを聞くに、実在した女性の人生を語るようで虚実の境目がわからなくなりそう。
(水島新司かあるシーズンのHR王を予想して「あぶさん!」と答えたエピソードを思い出す)


それにしても、何度も見たはずなのに晴美さんのシークエンスは頭が割れる勢いで悲しくなるなあ😢 いつ見ても心が耐えきれなくて吐きそうになる。あのシーンが近づくたびに「わー!そっち行くなー!」って心で叫んでしまう。


1本目
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