さく

ナイチンゲールのさくのレビュー・感想・評価

ナイチンゲール(2019年製作の映画)
4.2
ババドックにどハマりしたので鑑賞。

1825年当時のタスマニアで世間に最も嫌われていた2人(アイリッシュ/女性/囚人&原住民)、そして全てを奪われた2人が、奪った者に復讐をする話……と、簡単に言えばそんな話なんだが、よくある復讐劇のスッキリさはない。むしろトラウマになる場面が多すぎるし、精神的に弱ってる人は絶対避けるべきと思う。それはもちろん俳優やクルーにも当てはまる話で、撮影現場には臨床心理士がいたそう。

そこまでしてトラウマ場面を撮影した意味は、ひとえに当時のタスマニアを包み隠さずに表現するためだろう。「生き地獄」とも呼ばれていた場所で、社会的弱者がどれほど酷い仕打ちに耐えていたのか、そもそも彼らが”弱者”になったのは社会構造上避けられなかったということ、そしてそこから抜け出すことがいかに絶望的であったか、を全て伝えるためには必要な場面だったのだろう。

主人公2人の演技が素晴らしかったのは言わずもがな。ビリーは大衆向けに大幅に加工されたキャラクターのように感じたが、彼の明るさがなかったら、最後まで気力を失わずに見ることができなかった気もする。このペアへの希望だけが、心の支えのようだった。復讐の達成≒復讐者の死だろうということが安易に予想できる状況下で、観客が期待するのは復讐の達成(とそれに続く悲劇)ではなく、2人が分かち合い、わずかな期間でも2人に安らぎが訪れること、なんじゃないかな。だから2人のケミストリーが重要だったし、絶望的な世界/映画の中の唯一の希望だった。

エンディングはほんっっっっっっとうに素晴らしかった。あの距離間が、まさに、そうなんだよ!!!!って感じ。

この監督には期待しかない……!
さく

さく