垂直落下式サミング

ジャングル・クルーズの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ジャングル・クルーズ(2020年製作の映画)
4.0
ロックのジャングルクルーズは、ガイドさんの大袈裟なおしゃべりが面白いアトラクションそのもの、口八丁で旅行者の不安を煽ってチップを巻き上げる町の厄介者だ。エミリー・ブラントと冒険に出てからも、やっぱり普通に気を許せない嘘つきなのがいい。さすが史上最も成功したショープロレスラーである。
実質、エミリー・ブラントの女性版インディジョーンズではあるが、フェミニズムっていうかアンチジェンダーな方向に舵を切っているようだ。主人公たちの優れた部分だけでなく、同じように欠点もみせる。その方向性が、僕の目にはフェアにみえた。
ずぶ濡れでツンデレ関係を築きながらのクルーズであるから、モチーフとなっているのは『アフリカの女王』なのだろうけど、エミリー・ブラントの女学者は、キャサリン・ヘプバーンが演じた「男社会が求めるおてんばレディ」ではなく、ちゃんと現代にアップデートされたキャラクターだったと思う。
最近は、強い女性主人公がいいところをぜんぶ持っていくアクション映画が多いけど、本作はふたりとも平等に活躍して、平等に強くて、平等にクソなのがいい。船上で繰り広げられるロック&エミリーのやり取りは罵りあいが中心で、自分のことを棚上げして相手の失敗や不義理を責める罵倒の応酬であるため、カップルの痴話喧嘩みたいで普通にイラつくのが本作の特徴的なところ。
ロックは秘密が多くて、何段階も仕込みのタネ明かしするのがいけ好かないけど、エミリーのほうも気位が高い上に自己主張が強くて、あれこれ生意気に命令するのが耳障り。さらにムカムカしてきた。でも、これが男女の調度いいリアルさだったりする。
船に相乗りするのは、根性なしの弟と千両役者な一匹。弟君は、登場したときからナヨナヨしていて足手まといだし、これ見よがしにカミングアウトしてきたりと、普通だったら邪魔にしか感じないようなコメディレリーフだけど、コイツがいい清涼剤。ジャック・ホワイトルール、他ではみたことない役者だが、愛嬌の出し方が上手くて好きになった。
ジャガーちゃんは、絶妙にヌイグルミみたいでかわいいね。『ライオンキング』は必要な挑戦だったのだ。
惜しいと思ったのは、敵キャラの弱さ。万能薬を狙うドイツ将校は、この手の悪役に必要な卑劣な恐ろしさが足りないし、コンキスタドーレスたちはアマゾンに縛られているとはいえ、呪いパワーで偵察から捕縛からなんでも出来そうなのに詰めが甘すぎる。
でも、スペイン人征服者たちが南米大陸でやったことの真実を描き過ぎちゃうとね。祟りはファンタジーで中和しないと、ディズニーの子供もみるファミリームービーとしては成り立たないのかなあ。
前情報の時点で驚いたのは、健全娯楽だからゴア・ヴァーヴィンスキとかジェイク・カスダンあたりが監督してんのかと思ってたのに、まさかのジャウマ・コレット=セラの新作だったこと。これは見に行かなければならないと思った。
傑作『エスター』のあとは、長らく戦闘系リーアム・ニーソンの盟友として頑張っていた人だ。映画監督は、フィルモグラフィーからキャリアの積み方を遡っていくだけでも、この人はこういうのを撮りたいんじゃないかと、作家の色をある程度は想像できるもんだけど、今のところリーアムおじと仲良しってことしかわからない。ここまで業界での立ち位置が見えてこないのも珍しい。