雷電五郎

永遠の門 ゴッホの見た未来の雷電五郎のレビュー・感想・評価

4.0
青山シアター オンライン試写会で鑑賞しました。

ゴッホが本格的に画業へ専念した後半生を描いた作品です。

パリにおける画家の共同体理念に失望したゴージャンとの会話で「太陽の光で絵を塗りたい」とゴッホ自身が発言していた通り、一心に光を求めて筆を握り続ける子供のような無垢が描かれる反面、自身を苦しめ続けた病と突飛な言動から周囲の人々に忌避され嫌悪される孤独、そして、絵を描くことが命そのものでありながら画業が商売として成立せず弟の支援に頼り切りであることの罪悪感、どちらかと言えば悲痛な現実の比重が多くを占めています。

にも関わらず、絵を描いている時のゴッホは常に喜びの中にいる。太陽の光、青い空、夕焼けの赤、さざめく葉の音、自然のあらゆる美がゴッホの創作意欲をかきたて、描くことが生きることであるゴッホの歓喜を眩しく描写しているので、最後に至っても果たして彼は不幸だったのかと思う程でした。

悲しみと喜びがゴッホの絵のように複雑に混じり合って存在し、感情の先、思考の先にある永遠の意味を感じさせられるゴッホのセリフの数々。
人生を人間を羨むでも憎むでもなく、自らの生をまっとうするためにある「描く」という行為。
ネガティブな感情に閉じ込められることから最早解脱した場所にいるような、他人に見えないものを見つめる透き通った青い瞳。
どこか、悟りと似てますね。

ゴッホの繊細さが細やかに描かれた作品で、太陽が沈み再び昇るようにゴッホの人生にも光と陰りが差す。
映画の体裁を取りながら絵画的で詩的な作品です。映像の美しさもさることながら音楽と主演のウィレム・デフォーの演技がことさら素晴らしかったです。

ゴッホの最期については私も自殺だと思っていたのですが、最近残された文書などから再検証をした方がいらしたそうで、他殺説も浮上しているそうです。
今作は他殺説を取り入れた最期となっていますが、死の際ですら「誰も責めないと約束してくれ」と医者に言うゴッホの心根の優しさが悲しくてよかったです。

素晴らしい作品でした。
雷電五郎

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