ShinMakita

悪の偶像のShinMakitaのレビュー・感想・評価

悪の偶像(2017年製作の映画)
3.0
自身が属する党の方針にも背き、原発誘致反対を唱える清廉な男ク・ミョンフェ。次期知事選に立候補するのではと噂される人気抜群の議員だ。ある日帰宅した彼は、ガレージで何やら作業をする妻の姿を発見。その傍らにはビニールに包まれた死体があった。妻を問いただすと、息子ヨハンが湾岸道路をBMWで走行中、男を轢いてしまったというのだ。生きていた男をクルマに乗せ、その場を離れてしまったところ男が死亡。パニクって、警察にも届けずヨハンは家に帰ってきてしまったのだ。すぐに警察に電話し息子を自首させようとしたミョンフェだったが、ガレージ内の防犯カメラ映像を見て翻意する。そこには、まだ生きていた男がトランクから這い出る姿が映っていた。つまりヨハンの説明は嘘なのだ。妻とヨハンは、男を殺していたのである。轢き逃げと殺人では罪が違い過ぎる。そこでミョンフェは事件の偽装を決意。翌々日、死体を現場に遺棄することにする。

湾岸道路の側溝で茶髪の青年プナンの死体が見つかった。溝が深く、死後2日経つまで発見されなかったのだ。同日、ク・ミョンフェ議員の息子ヨハンが警察に自首してきた。息子が犯した轢き逃げをマスコミの前で謝罪するミョンフェ。責任を取り原発問題委員長の職を辞することになる。一方、被害者プナンの父ユ・ジュンシクは、安置所で息子と対面し泣き崩れる。小さな電気工具店を営むジュンシクは、ガラは悪いが優しい父親。知的障害のあるプナンを溺愛し育ててきた彼には信じがたい事件だった。警察署に出向き、逮捕されたヨハンと彼に付き添うミョンフェ議員と対面したジュンシクは、2人に激しく詰問する。「プナンと一緒にいたリョナはどうしたのだ⁈」と。

障害があるものの、プナンは結婚したばかりの身だった。相手は中国から来たリョナ。2人は新婚旅行で湾岸道路沿いのホテルに泊まっていたのだ。しかも、既にリョナは妊娠している。ジュンシクにとっては大事な「身内」だ。ジュンシクは、ヨハンがリョナも殺したのではと疑ったのだが、警察の調べでリョナは単に姿をくらましたのだと判る。防犯カメラ映像で、リョナが道路から逃げる姿が映っていたのだ。リョナは実は不法滞在者で、結婚証明をとっていないため強制送還の対象なのだ。そしてミョンフェ議員の方は、リョナの存在に不安が募る。湾岸道路から逃げたのなら、息子がプナンをはねてクルマに連れ込んだところを見た「目撃者」かもしれない…

こうして、轢き逃げの被害者遺族は「身内」として、加害者家族は邪魔な「目撃者」として、それぞれリョナの行方を追うことになるのだが…


「悪の偶像」。


以下、13歳から息子のネタバレを手伝ってきました


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事件の被害者側と加害者側の対立という一見単純な図式から、韓国お得意の「恨」映画かと思いきや、全く違う方向に突き進んでいくノワール。清廉潔白を絵に描いたようなミョンフェ議員がどんどんと悪の道に堕ちていき、真実と正義を求めていたはずのジュンシクもまた、闇へと堕ちていってしまうのです。実に救いのない話でした。この2人にリョナという凄まじいファムファタールが絡むことで予想できない展開になってきます。偶像というタイトルの意味、首無し描写、足の怪我、顔の火傷、謎の男キム・ヨングの存在…伏線・対比・メタファーの連打で、何度観ても楽しめそうな作品です。

主演は、インテリ善人イメージのハン・ソッキュと、粗暴低所得者イメージのソル・ギョング。韓国映画を見慣れた者には、前半の2人が「いかにも」な役柄で、ハマってるなぁと感心しちゃうんですが、いつしかイメージから大きく逸脱していくのに驚かされます。今年の韓国映画、ちょっとどうかしてるわ!
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