たかが世界の終わり

グリーンブックのたかが世界の終わりのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
3.8
「俺はNYのバーで働いてたから知ってる
この世は複雑だ」



1960年代、
人種差別が色濃く残るアメリカ南部にて
偶然かはたまた必然か巡り会った二人の男がいた



素直で真っ直ぐな生き方をする
黒人ジャズピアニストドクターシャーリー



人種差別が生んだ
周囲からの残酷で軽薄な視線、暴力的行為にさえ
あまりに素直でまっすぐな彼は
堂々と立ち向かったのだった



如何なる状況でも、決して彼は手を出さなかった



その地域で不当な扱いを受けることを
当然彼は予測していたし、
彼の素性も何一つ知らぬ人々に
実際に何度も袋叩きにされた



それでもあえてその町の人々に
音楽を届ける彼には
自身の生き方に対する
揺らぐことの無い信念を感じた



彼の奏でる力強くも優しいピアノの旋律、
それを包み込む柔らかな笑顔に
キリキリと胸が痛む



「ドクターがなぜこの旅に出たのかと尋ねたな
才能だけでは十分じゃないんだ
勇気が人の心を変える」




一方、田舎育ちのイタリア系白人トニーは
物事の善悪には
人一倍厳しく決して悪を許さなかったから
ドクターシャーリーの受ける不当な扱いに
怒りの感情をあらわにするようになる



「金持ちは教養人と思われたくて私の演奏を聴く
その場以外の私はただのニガー
それが白人社会だ
その蔑視を私は独りで耐えてきた
はぐれ黒人だから
黒人でも白人でもなく男でもない私は何なんだ?」



だが、
想像以上に脆く、壊れやすい存在である
世の中、そして人間は
集団心理という恐ろしい支配力により
激しく歪曲させられているから
正義感の強いトニーの善意は
時にドクターシャーリーを苛立たせた



気性が激しく喧嘩っ早いトニーと
常に冷静で落ち着いた性格のドクターシャーリー
当然2人の出会いは
穏やかなものでは無かった



だがその巡り合いは、確実に2人を変えた



感情的で幼い部分のあったトニーは
節度を保ち、思慮分別のある判断力を身につけた



感情を押し殺して
怒りも悔しさも1人で抱え込んでいた
ドクターシャーリーは
段々と自己主張をするようになった



あからさまな敵意が含まれた
周囲からの嫌悪の視線を切り裂くかの如く
颯爽と走る彼らの車は
広い大地を吹き抜ける奔放な草原の風までも
味方につけるようだった