ピカル

グリーンブックのピカルのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
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【沈黙の話】

『グリーンブック』観ました。

アカデミー作品賞・脚本賞・助演男優賞を受賞した作品。
観ない理由はない、ということで、公開初日に映画館へ。

本編を観ながらすぐに感じた。

え、マハーシャラ・アリ、主演男優賞じゃないの!?

マハーシャラ・アリ演じる黒人ピアニスト、ドクター・シャーリーと、彼の運転手としてスカウトされたヴィゴ・モーテンセン演じるトニー・リップ。

マハーシャラ・アリは本作でアカデミー賞助演男優賞を獲得したのだが、その存在感は主演なのではと疑うほど。
でも、だからといって主演のヴィゴ・モーテンセンに食ってかかるわけではなく、むしろ、その圧倒的な演技が正反対の性格であるトニーを引き立て、相乗効果でより高い域へ連れて行ってしまうのだ。
逆に、ヴィゴ・モーテンセンは主演でありながら、どこか一歩引いたような余裕もある。おしゃべりでガサツなトニーの性格とそのしなやかさのバランスが実に心地よい。

そうか、この映画はふたりがそれぞれ主演でありながらお互いにとっての助演である、完璧なアンサンブルなんだ。

本編はトニーの爽快なおしゃべりとともに軽快なリズムを刻んで展開される。

トニーのおしゃべりと知恵にはいつの間にか心を許してしまうし、対照的なドクター・シャーリーの冷静さはクセになる。

私は油断してしまっていた。
あのシーンが訪れるまでは。

ふたりが奏でるメロディに心踊らさせていると、それは突然やってきた。

“沈黙”

音も声もなにひとつない。
美しいまでの潔さ。

体全身に熱を帯びるのを感じた。
叫ぶことすら許されなかった。
手をギュッと握りしめた。

沈黙に閉じ込められた差別や偏見、孤独。

ある者は泣いてしまうだろう。
ある者は言葉を失うだろう。
またある者は傲慢にも魅了されてしまうだろう。

私は。

私は。

私は。

理解したくなった。
その前に。
考えたくなった。
もっともっとその前に。
感じたくなった。

相手を感じたい、と思う時、お互いの間にある沈黙からいったいどれだけの言葉が生まれるのだろうか。

本編中に数回やってくる完全な沈黙。
観客を信頼した、なんてもんじゃない。
この映画は、観客に託してくれたんだ。

託された宇宙は、観客の心の中でどこまでもどこまでも無限に広がる。
光も闇もいっしょに連れて行く。

私は、涙のないこの不意打ちの鼓動こそ、感動と呼びたい。

グリーンブック
:1936年から1966年まで、ヴィクター・H・グリーンにより毎年出版されていた、黒人旅行者を対象としたガイドブック。

差別や暴力の影になった本・グリーンブック。
それに初めて光を当てた映画・グリーンブック。
このガイドブックは私たちをどこへ導いてくれるのだろう。

果てしない旅にクライマックスなんて、きっとない。
ふたりのアンサンブルは今もどこかで鳴り響いている。