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グリーンブックのesewのレビュー・感想・評価

グリーンブック(2018年製作の映画)
3.0
2019.10/6

いい映画だけど、アカデミー賞作品賞か?と言われれば微妙。心に迫って来ない。

アフリカ系の天才的ピアニストであるドクターシャーリーと、その用心棒兼お抱え運転手をするイタリア系アメリカ人のトニーとの間にわだかまりがなさすぎる。つまり、トニーがこの手の人種差別問題で差別意識を持つ側のキャラとしてはいい人すぎるので対立が際立たない。際立たないので、その対立が最高潮に達した車の口論シーンでもシャーリーが心の叫びを口にするだけで終わる。トニーは反論して来ない。

面白いのは、シャーリーの方にも差別意識がある点。学がなく倫理規範もゆるゆるのトニーを下層民として扱って啓蒙してやろうという意識がはっきりと描かれている。

シャーリーが抱える三重苦が物語の主要テーマなんだけど、黒人と白人という対立背景(vsトニー、vs南部社会)を物語上設定しているのでその三重苦の最後の1つが上手く立ち現れない。それを間接的な逮捕シーンで描くけれども、その逮捕シーンの解決に大統領からの手回しというミラクル展開を使ってしまうのでシャーリーの凄さが際立ってしまい印象が薄まる。

そんなこんなで、シャーリーがこの物語の時代を生きるのがいかに困難で孤独で不安だったかという問題があまり真に迫って来ないのであった。口論のシーンで、一気にシャーリーの口調と声色が変わったのは俳優さんが上手と思った。あそこは俳優の演技力でリアリティと説得力を持たせることができていた。

ただ差別をどのように解消して受け入れていくかという具体的な方法としてはとてもよく描かれていて、つまりは互いに関わって距離を縮め、ある地点で双方にぶつかり合う綺麗事ではない本気と本音が必要で、その不和を経験した後に互いに譲歩し、受け入れ、納得していくしかないんだよと教えてくれる。

移民を受け入れ始めた日本も数年後十数年後にはこういう状態を経験するのでこの物語を日本人が今見ておくことは大事だと思う。
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