Zuma

ジョーカーのZumaのレビュー・感想・評価

ジョーカー(2019年製作の映画)
4.8
HAHAHAHAHAHAHAHAHAHA.....

人間味と、狂人との狭間をゆらめき幾度となく発声する高笑い。



自分の、心を突き上げられて起きる彼の行動や、所作がこちらの気さえも揺るがし不安にさせ何か歯車をおかしくする。

羊たちの沈黙や、キングオブコメディ、タクシードライバーなど、サイコのジャンルの名だたる映画のオマージュが施されどこか既視感のある、それ故によりゾクゾクとする。

HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA...........

彼の笑いの奥底に潜むのは、環境や社会からの仕打ちに対する不満と怒り。この映画には、たくさんのトリガーが用意されていてアーサーもそのひとつに指をかけ、あることをきっかけに引き金を引いてしまう。


これは、社会からの理不尽なことを迫られ少しずつ変わっていく自分の心情や抽象的な思いに対して真摯に向き合おうとするきっかけになる。

その後髪を緑に染め、ピエロのメイクを施すことは表面上で、自分の変化に対して向き合うことというふうに視覚的に認知ができる。

しかし、もうその時点ではほとんど完成形であり、そのシーンが出るまでにたくさんの原因がある。途中、描き出されるそういった自分との対峙や、それに伴う行動は実に生々しくリアリティに富んでいる。

苦難、逆境、理不尽様々な問題を一度に受けると、人はどこかが狂い始める。
そして、失うものが何一つなくなると最狂へと変貌を遂げる。
怪物じみたモンスター的なJOKERではなく人間味溢れ、ありふれる日常の一部であるようにも感じさせるまさに不安定かつ変換点なのである。

彼の、障がいである「笑う」ことについては、滑稽で面白がって出る笑いではなく、優越感やによる笑いでもない。簡単に説明することができない哀愁や孤独、狂気など様々な要素を併せ持つもので、それを完璧に演じあげるホアキン・フェニックスは筆舌に尽くしがたいものであった。


さらに、彼は決して自分自身を正当化をしようとしてはいない。何が正当で何が不正当かなんていうのはとうに通り越したのである。極めて自己中心的な物事の進め方なのかもしれないが、自分の行動は“正しい”ただ、それだけのことである。


人生とは複雑で、おとぎ話や、他のアメコミとは違ってハッピーエンドや劇的な分岐点なんてものは非現実的なのである。(だからこそ、観ていて楽しいのだが)
現実的で複雑な面を、とめどなく赤裸々に描き出した今作は美しかった。それがあっての「that's life」という言葉は本当に身に染みた。
さらに、危険を感じるようなシーンに仕立て上げるための、コントラバスの重低音が響き渡るのは身も心も震え上がり素晴らしい演出であった。


アーサーという一人の人間がいかにしてJOKERという、怪物的な者になったのか。これは、アメコミではなく、究極のヒューマンドラマであった。
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