都部

一度死んでみたの都部のレビュー・感想・評価

一度死んでみた(2020年製作の映画)
3.8
思わぬ佳作。約90分の映画ながら大胆な布石の配置とその鮮やか回収により加速度的に面白味を増していく様は非常に小粋で、そこに飽きさせる暇を与えないとばかりに独特なギャグセンスを連続投入していく気概は嫌いではないし、人の死を自覚的に滑稽な物として扱いながらハートフルでロックな結末へと着地する手際は見事と言わざるを得ない。

本作の満足度を高めているのは振りと早々に回収されるオチによる小規模な快感の連鎖による進行で、穿てば粗野で乱雑のように見えるネタの応酬は実際かなり丁寧な間を理解した挟み方になっているのが大変良いですね。これに加えて物語を綺麗に着地させる伏線のロングパスの使い分けも成されていて、そのネタの見せ方も決して一辺倒ではなく本編に敷き詰められた要素をピタリと嵌るべき場面で嵌めてくるのが映像作品としての鑑賞の際の普遍的な気持ちよさに繋がっているのも巧み。

こうした技巧的な利点を重ねてくる作品としての優等生さに語り部である七瀬のデスメタルや性格を絡めることで、より破天荒なネタを連続させてくる中盤〜終盤は映画としてのゾーンに入っていて面白いのなんのですよね。告別式の下りから結末まで一気に駆け抜けていく物語としての疾走感も抜群ですし、小ボケの打率も高いから気持ちよく口角を引き上げてくれる。あざとさのないコメディとしてよく出来ている。

主演 広瀬すずが演じる七瀬と吉沢亮演じる秘書の松岡の小粋なボケ/ツッコミの距離感もかなり良かったんですが、不器用で愉快な父親をやらせたら日本一の堤真一の扱い方もねー最高でしたね。リアリティを失した人物造形なんですが、それを通すだけの演技力があるから違和を感じることなく素直に呑み込めますし、自分の死体を霊体として滑稽に見守る姿は挙動の一つ一つが印象的で、作品の雰囲気を明るくする/またどういうテンションで見るべき作品なのかを示唆する存在として良い役回りでした。

豪華俳優陣達による日本のコメディということで、若干危惧する気持ちもあったのですがこれくらいの尺でこれくらい熟れた映画だと面白くて良いですね。概ね満足です。
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