へちまびと

アド・アストラのへちまびとのレビュー・感想・評価

アド・アストラ(2019年製作の映画)
3.2
古くからのSFがそうであったように、SFという表現を通じて普遍的なテーマを描く作品。父と子の関係。家族という関係が認識できず、父親になりきれない男。父親を変えられない息子。変われない父親。

父親トミーリージョーンズの「二人で仕事を続けないか」という言葉には、愛や尊敬はこもっているが、息子に向けられるものではない。あくまで仕事仲間、男同士の会話だ。

妻や子供といった家族に対しての父親の役割が果たせず、仕事仲間と仕事の話しかできない男が今作の父親である。仕事以外の関係には関心がない、どころか、理解できないものとして恐怖すら感じている。

そんな世捨て人の父親が、海王星軌道上というほとんど深淵の底と言っていいような場所にいて、そこへ息子が会いに行く。
神話のように壮大なSFだが、全ては父と子の関係を浮き立たせるための舞台装置に過ぎない。

たいていの場合、どんなに子供が必死になっても、父親を変えることはできない。自分を変えられない父親は、自分自身のいびつさに躓く。子供はそんな親を助けられない。悲劇とも喜劇とも見られる、どこにでもある家族の風景である。

いろいろツッコミどころはあるものの、基本的には良作だった。暴力沙汰も軽いスパイス程度に抑えてあり、流していて心地の良い映画だった。