むさじー

優しき罪人のむさじーのレビュー・感想・評価

優しき罪人(2018年製作の映画)
3.6
<贖罪と赦しを巡る寓話>

交通事故で両親を亡くした19歳のヨンジュが、非行に走った弟を抱えて経済的に行き詰まり、素性を明かさないまま事故の加害者夫婦と関わっていく。最初は復讐のつもりだったが、贖罪の意識から抜けられない加害者の人柄はあくまで優しく、他人に愛を施すことで自らの傷を癒しているかのようで、双方に家族のような感情が芽生えていくのだった。
だが素性を明かすことでその関係性は壊れ、それぞれが苦悩へと追い込まれていく。加害者は相手が被害者家族と知って元の贖罪者に戻り、一方の被害者は罪を償った人を再び苦悩に追いやった罪にさいなまれる。何ともやり切れない連鎖だ。
「その後」は描かずに想像に委ねるエンディングだが、監督の弁ではエピローグは制作したが最終的にカットしたらしい。誰しも何らかの形での和解を想像するが、このモヤモヤが残るカタルシス放棄にこそ制作者の様々な思いとメッセージが込められているようで、むしろ余韻になっている。
憎しみと家庭的な愛情の狭間で葛藤する少女をキム・ヒャンギ、罪の意識から自殺未遂を起こし酒に逃げる加害者をユ・ジェミョン、苦悩する夫と寝たきりの息子を抱え信仰に勤しむ優しい妻をキム・ホジョン、三人の絡みが素晴らしい。寝たきり息子の存在理由が希薄なことと、ストーリー展開に無理が散見されて完成度は今一つだが、寓話性に満ちた人間ドラマとして見るべきものがある。
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