むさじー

親愛なる日記のむさじーのレビュー・感想・評価

親愛なる日記(1993年製作の映画)
3.6
<街をめぐり、島をめぐり、医者をめぐる>

3章からなるシネマエッセー。「ヴェスパに乗って」は8月のローマをヴェスパで走り、今どきの映画に憤り、批評家の評に悪態をつき、パゾリーニに敬意を表す。「島めぐり」は脚本に打ち込むため友人と島を巡るが、疎遠になっていたテレビをうっかり観てしまい、続きが気になって島を逃げ出す。「医者めぐり」は原因不明の激しいかゆみに襲われ病院めぐりをするが効果なく、精密検査でがんを宣告されるも軽微なもので治まり安堵する。
劇的なドラマでもドキュメンタリーでもなく、日常の些細な出来事を日記風に、コメディ風に映像化した作品。たぶん粗々のシナリオがあって、あとは成り行き任せなのかという気がする。日記だから当然主役は自分で、ありのままに書くのが基本だが、そこには主観が入り多少のフィクションが紛れ込むもので、その微妙なサジ加減が味わいになっている。
そしてモレッティの人間性が色濃くにじみ出る。想像されるのはユーモアがあって皮肉屋、人懐っこくて楽天家、映画が好きで自称少数派だということ。彼は1989年にがんと診断されて闘病生活を送り、後に回復して本作は復帰作に当たるとか。生死を彷徨った後の作品なので、特に生きている喜びと人間賛歌、楽天的であろうとする姿勢が見てとれる。
また、ローマの街並み、島めぐりの海と山の映像が美しい。風光明媚な景色をボーッと眺めて幸せな気分になれる映画でもある。ただしドラマチックな要素は皆無なので、退屈に感じる人はいるかと思う。
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