常盤しのぶ

メランコリックの常盤しのぶのレビュー・感想・評価

メランコリック(2018年製作の映画)
4.0
物語の締め方にはいくつか種類があると思う。良い感じに張った伏線が綺麗に回収されたり、あるいは続編に期待を持たせたり、あるいは張りまくった伏線なぞ知ったことかと言わんばかりに全てをブン投げたり……まぁ色々ある。本作は『張った伏線を全て回収はせず』、『ブン投げ』、しかし物語として『これ以上なく綺麗に終わらせている』という変な映画である。

本作のストーリーは単調に、そう、驚くほど単調に進んでいく。和彦が同級生と再会し、それがキッカケで銭湯でバイトを始め、夜に殺人がおこなわれていることが発覚し、死体の掃除をさせられ……こちらが心配になるほど淡々と物語が進んでいく。しかし不思議と飽きずに観続けられる。どこか近所で本当に存在していそうな雰囲気を醸し出している。少し長めのダークなPeeping Lifeというか、創作ではなかなか出せない生々しさが随所に散りばめられている。そう、人生は張られた伏線通りにはいかないものなのだ、基本的に。

一流の演者を用いて一流の設備を使って本作を撮った場合、きっと陳腐な仕上がりになっていたと思う。何故ならこのシナリオは、この物語は、一流と呼べる人間がいないからだ。殺し屋の松本でさえ腕は立つが一流ではない。和彦など言わずもがなだ。この物語に演者とはいえ一流が紛れてしまうと、チグハグした印象を持ってしまうと思う。そも我々の身近に一流と呼べる人間はそうそういる筈もない。

本作は紆余曲折を経て、これ以上ないくらい綺麗な終わり方を迎える。しかし、観てもらえればわかるが、本作における問題点は何一つ解決しない。エンドクレジットが流れ終わっても。せいぜい先延ばしにしている程度だ。それでも『この物語』として綺麗に終わっている。『あぁ、この時間がずっと続けばいいのになぁ』と思わずにはいられない。

物語はここで終わりを迎える。しかし、彼らの人生は終わらない。この生々しさが、私は大好きだ。