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運び屋のyksijokiのレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
3.4
時間は金で買えない。
けど、時間が直してくれるものもある。

マジで冒頭から90年代初頭みたいな映画の撮り方だし回想シーンからの回想シーンとか突然の12年後とかイラッと来るんだけどそういうのをこの時代にさも新しい手法のように撮ってしまうクリント・イーストウッドという監督に驚かされた。ちょっと新しいのでは?と思わされてしまうし何なら一周回って新しかったりするんだろう。

物語は仕事人間だった爺さんが90歳になって仕事を失い、周りから家族が居なくなっていたことに気づいてどうにかしようとして麻薬運搬のドライバーになるお話。死を抗わない開き直りの横暴とも言える精神力の強さはグラン・トリノで彼が演じた役にも通ずるものを感じた。テクノロジーと時代に取り残された老人。周りで迷惑がる家族。老いることと近づく死。この題材をイーストウッドが撮って、さらに自らが演じることの意味みたいなものは考えさせられた。彼は老いた自分を恥じることなく外向きに横暴に生き続けることで失った時間を取り戻そうとするが、それではうまく行かないことにはたと気付かされる瞬間があって、それをサラッと組み込むのが流石だなと感じた。感情の変化を表情で捉えたりしてないと思う。。

イーストウッドの演技とこのテーマ選定の面白さに拍手。笑えないジョークとか旧時代に取り残されている自分に気づけない痛々しさとかもすごくリアリティがあった。

ただ、それ以外は正直微妙というかあまりハマらなかった。お涙頂戴プロットに舵を切り始めてから奥さんの演技は鼻についてイライラしてしまった。そして主人公の動機の外堀りが薄いと思ってしまった。娘と話せないとかいいながら孫娘の学費払って鼻高々だったり。婿含む男性陣との交流も全く描いていなかったり。当時の生活感がないから仕事>家族な爺さんを示すエピソードが結婚式シカトぐらいで薄い。これだけ聞かされてる我々には全く許せる余地がないというか、よく家族はこれを許せるなとしか感じなかった。逆に金と名誉に目がくらんでどハマリしてカルテルの中で豪遊していくならよりその描写が欲しかったし、家族との距離を縮めるためにということだったらそちらの演出をもう少し強めてほしかった。中途半端に動機が見えないので余生スリルあって楽しそうでいいじゃんと思ってしまった。さらに死や危険を感じなかったのでオチも読めてしまった。

あと、ストーリー構造的なつじつまの不器用さみたいなものも気になってしまった。麻薬カルテルがアホすぎるとかそもそも運送屋に頼んだブツの輸送を後ろから尾けて見守るとか有り得るのかな?とかGPSつけてなかったっけ?とか。カルテルの中でのタレコミ屋のポジションが見えないとか。

クリント・イーストウッドの演技、彼が歩んできた詩吟はビンビンに出てた。劇中のブラッドリー・クーパーとの会話での心の会話、内省はすごく良かった。同じことの繰り返しの中での機転の効かせ方とかジョークとか音楽とかもゆったりとした展開の中で飽きさせない工夫だったと思う。

予告やグラン・トリノで方向性を決めつけて観てしまった私が悪いのかもしれないけれど、何かやっぱハートウォーミングに作りすぎて予定調和に感じてしまったのがハマらなかった理由かなぁ…。
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