キャッチ30

運び屋のキャッチ30のレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
4.0
主人公の設定が90歳というのは珍しい。また、その役柄を演じきれる人はごく少数である。イーストウッドもその一人だ。

俳優イーストウッド本人にとっては復帰作にあたるし、最後の作品になるかもしれない。彼は自然体を気にする人だ。若手か中年の役が多い映画業界。そんな中で、今作の90歳の運び屋は本人にとって目から鱗だっただろう。

主人公アールは朝鮮戦争の退役軍人であり、デイリリーの栽培に精を出している園芸家だ。外面は良いが、家族を蔑ろにしてきた為、家族関係は冷え切っている。デジタル環境に対応できない彼は失業する。成り行きで彼はシナロア・カルテルの麻薬を運搬する運転手となる。そんな彼に、麻薬取締局のベイツが迫っていく。

イーストウッドは脚本家のニック・シェンクと共にアールの人生を構築する。アールは家族との和解を望んでも、麻薬の運び人という間違った道に走ってしまう不器用な男だ。イーストウッドは自身の過去を回顧するようにアールに含みを持たせている。

麻薬組織の顛末が描写不足のように感じるが、イーストウッドにはベテランの風格と観察眼がある。クーパーとダイナーで話す描写はマイケル・マンの名作『ヒート』を彷彿とさせるし、ネット販売やスマホ依存に対する批評性も備えているようにみえる。「お金でものは買えるが、時間は買うことができない」という台詞が全てを物語っている。