ひでやん

蜜蜂と遠雷のひでやんのレビュー・感想・評価

蜜蜂と遠雷(2019年製作の映画)
3.5
ギフトか災厄か。

原作未読で鑑賞した結果、高揚感を何度か覚えたものの、感動までには至らなかった。音楽の出会い、葛藤、挫折などの心理描写、友人や家族などの日常描写がないまま冒頭からコンクールに突入し、予選、本選と進んだため、助走のないジャンプが期待のハードルを超えなかった。ドラマの最終回だけを見ている感じ。

4人の若きピアニストたちのバックボーンは描かれていたが、度合いがいまいち分からなかった。「あーちゃん?」「マーくん?」と一気に幼馴染みの距離を詰められても、馴染みの度合いが分からず、ユウジ・フォン・ホフマンの推薦状と言われても、どれくらい凄い人なのか分からず、誰?となった。

500ページを超える大作小説を2時間という枠に収め、その中でピアノ演奏をじっくりと聴かせたので無理もない。演奏の情景や天才の内面を文字で表した原作の表現力は素晴らしいんだろうな、きっと。原作者が「映像化は不可能」と言った大作を撮り上げた今作に、監督の技量は感じられる。

冒頭と終盤にある雨の描写が美しい。月明かりが差し込む中、2人の指先が鍵盤の上を踊る連弾が印象的。二次審査の「春と修羅」は穏やかさと激しさが表現され、後半部では即興的に演奏する超絶技巧が素晴らしい。特に松岡茉優の演奏は固唾を呑んで見守った。

鍵盤に触れている時は天才に見えたが、ピアノから離れると普通の若者たちに見えてしまったので、凡人には立ち入れない「あちら側」の領域をもっと感じたかった。
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