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ちいさな独裁者の一人旅のレビュー・感想・評価

ちいさな独裁者(2017年製作の映画)
5.0
ロベルト・シュヴェンケ監督作。

二次大戦末期のドイツを舞台に、将校の軍服を拾った上等兵が身分を詐称して権力を行使してゆく姿を描いた戦争サスペンス。

二次大戦末期、上等兵でありながら将校を装って囚人の殺戮を主導した実在のドイツ兵:ヴィリー・ヘロルト(1925-1946)の一部半生を描いた、実話を基にした戦争サスペンスの力作であります。

ドイツ敗戦の一か月前、道端に放置された車両で見つけたナチス将校の軍服を着用して大尉を装い始めた上等兵:ヘロルトを主人公にして、道中出会った兵士達を次々服従させていきながら、やがて犯罪者収容所で人道に反した殺戮行為を指揮してゆく主人公の変貌を見つめています。

権力と人間の関係性を華燭なく炙り出した意欲作で、権力を象徴する“軍服”の見えない力がそれを着用した主人公の心を支配し、同時に主人公以外の兵士の心に絶対的な服従心を生み出していきます。主人公は軍服を着用するだけで立派な将校と認められ、配下の兵士達も軍服姿の主人公が下した命令に疑うことなく忠実に従う。つまり、軍服を誰が着たかではなく、軍服そのものに権力が象徴されている点がミソとなっています。

権力を前にした人間の心的反応を、権力を行使する側・される側双方の視点により明らかにした異色の戦争サスペンス。軍服を“肩書き”に置き換えれば現代社会にも当て嵌まる身近な話であります(横柄な上司と、委縮するor媚び諂う部下の図と一致)。
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