菩薩

ちいさな独裁者の菩薩のレビュー・感想・評価

ちいさな独裁者(2017年製作の映画)
3.3
実話ベースの戦争映画でありながら、実際は痛烈なる社会風刺映画であると言う時点で、この映画は一つの「嘘」をつくことに成功している。同時にやはり人間はちゃんとどこまでも残酷になれるのだなと改めて実感するに至るし、何一つ進歩も無く、今後も不毛な騙し合いと削り合いをしていくのだろうなと絶望的な気持ちにもなる。嘘つきが泥棒の始まりならば、世の中は全て泥棒で埋め尽くされている、ならその泥棒から身を守る為に嘘をつく事は許されない事なのだろうか。自分が生き延びる為につく嘘、それを隠す為の嘘、殺されない為につく嘘、殺す為につく嘘、嘘をつかないと死んでしまうと分かっていたら、貴方は嘘をつかずに死ぬ道を選べますか。別にナチに限った事では無く、権力は常に権威の笠を着る者、それに盲目的に付き従う者、それらに虐げられる者の三層構造を為している。案外一番タチが悪いのはこの二層目にいる人間で、上からの命令ですからと言う大義名分と、自らの立場がありますからと言う保身の精神があれば、人間は何処までだって突き進む事が出来るのではないか、アイヒマン実験を例に出すまでもなく。混迷した時代、何処までも積み重なるフラストレーション、それの捌け口として「叩いて良し」とされる人々が関係の無い人間に叩かれ続ける現実ってのは、現代の方が如実に現出している訳だし。解決策など何も無い逡巡は、常に滅びてしまえとの結論に帰結する、まぁそんなのも当然嘘ですけどね、私も泥棒、何処かで誰かにとってのちいさな独裁者なので。
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