ドイツ敗戦まで一ヶ月。ある脱走兵が偶然拾ったのはナチス将校の軍服だった。そのことで彼に降り注ぐ威光。自ら軍服で仮面を作った男が行き着く先は…
いやー、胸くそ悪かった。
主演のマックス・フーバヒャーの演技も良かっただけに、胸くその悪さが自分の中で充満していった。脇役のドイツ兵たちの「総統」を鼻にかけた暴走っぷりも狂気の沙汰で、一着の軍服によって起こった事の顛末が実話に基づいていることにも悪寒が走る。
脱走兵が軍服を着ただけで将校になりうるのか。
そう思わせてしまう何かを彼が持っていたとしかいえないが、「権威の傘に入る」という意味では本作のもう一人の主人公は軍服だろう。
また、彼にからんでくる野戦憲兵しかり、逃亡兵らの収容所にいるジャイアンしかり、己が都合によって司法を曲解し、事と次第によっては「総統」の名前をも利用する。こういったことが戦場ではあるのだろうな、とも感じたし、それを利用して生き延びていく連中もいるのだろう。特にミラン・ペシェル演じる兵士が「あることに安心する」点が非常に考えさせられる。
フェイクがフェイクでなくなっていくことの恐ろしさを描いたこと、またパワーハラスメントにおいても今につながる作品だった。映画を見ている分には傍観者でいれるが、はたしてあの状況下に自分が置かれたら?と思うと…他人事ではないのではないでしょうか。
あー、胸くそが悪い。