KATO

ちいさな独裁者のKATOのネタバレレビュー・内容・結末

ちいさな独裁者(2017年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

人間ってここまで嫌な生き物になれるのだなぁ。これが現実に起こったというのが、救いがなさ過ぎて。。。

最初からずっと嫌な気分で観ることになる。脱走兵が運よく手に入れた軍服を着て、その軍服に“見合った”行動と判断をしていく。しかし、それは権力に見合っているだけで、彼には分不相応なのだ。
どこも、よかったねと言えないのがツラい。ヒリヒリというより、モヤモヤ。吐き出したいけれど、何を言いたいのかもわからなくなってしまう。
時代が時代である。仕方なかったといわれれば、それまでだけれど……それにしても、虐殺をする必要が彼にはあったのか?
観た後、少し調べてみると「自分が何をしていたのかわからなかった」と証言していたことが分かった。彼が死んだのは、21歳のとき。10代で戦場に赴き、逃げたくなるほどの状況を見せられ、たまたま権力を手にしてしまったら。誰でもくるってしまうかもしれない。それまでありつけなかった食べ物に酒、女……すべての欲望を満たせるのだから、動物的な思考を持ち合わせてしまうこともあるのかもしれない。
冒頭に浮かべていた彼の戸惑いの表情は「軍服を盗んだ」と、芸を見せてくれた俳優に“冗談”をいったあたりで消えた。他人の手を汚させて、自分の手も汚して、残虐なイメージを現実のものにすることで、彼の理性はなくなってしまったのかもしれない。
3つの死体を引きずりながら逃げていく男の背中、おびえたような表情で死体を埋めたくないと叫ぶ兵士たち、すべてが異常だった。しかし、この異常な状態が、当たり前のように営まれていた歴史がある。
人間はこんなに残虐になれるし、信じられないことも当然のようにできてしまう。そして、それを良いこととする考え方も存在したのだ。

エンドロールはゲリラ的に街で撮影されたのだろうか。『帰ってきたヒトラー』でも、街中で一般市民のリアクションを撮影していたことを思い出した。
彼らのしたような反応を、現場にもし私がいたらしていると思う。平和ボケしているのかもしれない。でも、現在の平和ボケの感覚を当たり前だと思う世の中であってほしいし、世界中の人にも思ってほしい。
自分のどんな感覚も分からなくなる、混乱してしまう作品だった。
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