ニシカ

ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密のニシカのレビュー・感想・評価

4.0

「私は"重力の虹"の果てを見てみたい」




舞台は現代アメリカで移民問題やリベラルに触れ、差別レイヤーを搭載するという今どきの体裁を保ちながら、アガサ・クリスティ的グッドオールドミステリーで魅せる。裕福な老作家と脛齧りのファミリーに一族をフォローする者たち。早くも犯人、動機が判明するも、爆破、逃走、真相と目まぐるしく状況が変わる見事なプロット。そこに笑いもアリの快作。
配役、プロップス含めお見事!




監督、脚本はライアン・ジョンソン。
近年稀にみる賛否両論作「最後のジェダイ」のライアンだけど、ひょっとしたら世界観がある程度コンパクトな中でツイストしながら生み出す物語の方が映える才能のような感じですね。

役者陣は"ドラゴン007""キャプテンギフテッド""ハーツビートヘレディタリー""2049007"など近年の話題作で活躍している方々だらけで、スクリーンに出てくるだけで映画ファンには楽しいキャスティング。


ダニエル・グレイグとアナ・デ・アルマスの本作でのホームズ、ワトソン君コンビは今年公開の「007 No Time to Die」でも共演していて、あちらのキャラクターではまた渋い感じなのに、本作の2人はおっさんとおねーちゃん感が存分にあり、そのギャップも良いです。

クリス・エバァンスは"キャプテン・アメリカ"として「言葉が汚いぞ」by エイジオブウルトロン みたいな役のあとに、「クソでも喰ってろ」って罵しる富豪の孫役"ランサム・ドライズデール"を演じていて相変わらず筋肉ムチムチでしたが、"正しい"役まわりが多い彼には今後の配役にも影響をあたえる当たり役でした。



アナ・デ・アルマスが演じた看護師マルタの、嘘をつくと嘔吐するという多少強引な設定も、彼女は真実しか語ることしか出来ないという巧妙なガイドラインとなり、この固定された視点トリックに我々はまんまと騙されるわけです。彼女は嘘をつけない、そして、彼女は犯人である。


しかし、それまであんまり役に立っていないダニエル演じる探偵ブノワ・ブランが物語後半からメキメキと伏線回収を始めます。マルタは犯人である。それでも真相がひっくり返るという、これぞ探偵が存在する正統派ミステリであり、彼が活躍すると共にラストに向かい物語が加速し始めます。

富豪推理作家ハーランの優しさゆえに事件が起き、看護師マルタの優しさゆえに事件が解決するという巧みさ、富豪一族と移民であるマルタの上下関係が転覆し逆転劇で終わる象徴的なラストカットの巧みさと、内容・映像共に秀逸な作品でした。

そしてこのラストカットは血の繋がった家族の誰もが金を無心し自分に嘘を付くゆえ、嘘がつけないマルタを側に置いた作家ハーラン・スロンビーの愛用マグカップに口をつけてコーヒーを飲むマルタだけがハーランにとってはある意味で唯一の家族であったこと、そしてそれこそがハーランの決死の動機であったことが視覚であらためて認識できるのです。



いやー、ライアン・ジョンソンはフォース抜きの方が上手いね。
ニシカ

ニシカ