上空からの瓦礫だらけのシーンから始まり、やがてリンカーンセンターの看板が映し出され、そこから廃墟の中をダンプカーやクレーン車が動き回っているシーンになる。これを見て、最初は一瞬リンカーンセンターやその周辺が破壊されて再建される近未来の時代設定かと思ったが、実際にはマンハッタンの再開発でリンカーンセンターを建設中という1950年代後半、前作の「ウエストサイド物語」と同じ時代、場所設定だ。
やがて街並みや自動車が映し出され、道行く人々の服装などからも前作と同じ設定のリメイク版なのだとハッキリする。特に自動車は懐かしい50年代のデザインなのでよくわかる。
映像も昔の映画を見ているようなレトロ感のある色調にしているが、これはちとやり過ぎ感があるかな。
しかし、そういう中で所々微妙に違うところがあり、見ていて違和感が出てきた。まず最初に出てきて、本作中でも一番の違いは、ドクの店の主人が年老いた男から年老いた女に変わっていることだろう。ドクはすでに亡くなっていてその妻が店をやっているという設定だ。キャラ設定の変更くらいはよいと思うが、前作の登場人物が亡くなっているとなると、前作から少し月日が経ってるのかとかややこしく考えてしまう。もちろん他の設定は同じところが多いし、事件が起こるのも一度なのだからそういうことはないのだが、パラレルワールド!?みたいに困惑した。
またジェッツに入りたがっているが女だからということで相手にされていないエニーボディズの描かれ方もだいぶ違っていた。前作では明らかに少女の面立ちの役者(スーザン・オークス)がボーイッシュに演じていたが、本作では実際にLGBTQを告白しているエズラ・メナスが起用されている。前作ではエニーボディズの場に似合わない可愛らしさが映画の中でスパイス的に効いていて全編を通しての道化回し的な役割も果たしていてかなり重要な役に思えたが、本作では見栄えもパッとしない地味な役になってしまっていたし、作品の中では逆にトランスジェンダーであることはあまりはっきりと描かれていないので、前作を知らない人はエニーボディズの役割や性別などわからないまま見た人もいたのではないかと思った。
他の役者も本作ではマリアはいいとして、トニーやベルナルドなど前作より見栄えがパッとしない感じで、ある意味逆にミュージカル映画にふさわしくないのではと思ってしまった。本作では、皆吹替なしで歌える役者を使ったらしいが、どうせ歌唱シーンはアテレコだろうからそんなに意味はないかなとも思った。歌ってるシーンでどう見てもその雰囲気や表情が流れている歌声と合ってない感じがしたのだ。歌は歌いあげてるのに、顔や体はそんなに震わせているように見えなかったり、歌唱シーンになると周りのノイズがなくなったりしていたからそう感じた。
しかし、さすがにオープニングのジェッツとシャークスのダンスシーンなどは見事で見応えがある。このシーンに限らず、本作ではカメラの長回しのカットが効果的に使われている。まあ本作がいいのはこうした映像表現だけかな。
内容は現代のポリコレに応じてなのか無理し過ぎ感がある。先述のLGBTQ俳優に限らず、シャークスの人間は前作では顔を黒く塗ったりしていたらしいが、本作では実際のプエルトリコ出身者らを起用したらしいし。
話の流れも無理に前作と変えようとしているのか、時間や場所を理解しづらい部分もあった。総じてテンポは悪く盛り上がりに欠けた。まあミュージカル映画のリメイクって難しいんだなと思った。前作が素晴らしすぎる。
なお、トニーとマリアが地下鉄に乗って訪れるチャペルのある美術館はどこかと調べたら、マンハッタンの北側にあるクロイスターズ美術館らしい。