Dana

男はつらいよ お帰り 寅さんのDanaのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

良かった。
この手の続編はなぜか最近よく作られているので何となく想像できていて、それだけに心配もあったのだけど、そんな心配は必要なかった。
良かったと言える要素は色々あるのだけど、大きく分けると①回想シーンの”懐かしさ”、②登場人物たちの”その後”、③シリーズ”未解決問題”になる。

①の回想シーンはこの映画が50周年記念ということでこの”懐かしい”要素はなくてはならないもので、当然シリーズ初期から後期までの映像で懐かしさを感じられた。

②の”その後”については、結構納得のいくその後ばかりだった。満男も泉もリリーも”らしい”その後で全く違和感がなかった。満男がただの小説家じゃなくて「遅咲きの駆け出し小説家」なのが満男らしいし、泉がバリバリのキャリアウーマンになっているのもらしいし、何よりリリーが小さなバーを経営しているのが理想すぎて感動した。本当は他にもいろいろあるんだけど細かいことを言うときりがないのでこれくらいにする。(工場がつぶれてあけみの家になってたり、とらやが喫茶店になってたり、満男の子がおばあちゃん子だったりetc.)

正直、①に関しては絶対悪くはならないし(全編こればっかだと嫌だけど流石にそれはなかった)、②に関しても危惧していた「なんかそうじゃない感」も全くなかった(これに関しては考えた人がすごい。脱帽)
しかし、一番良いと思ったのはそれ以外の③シリーズで未解決だった問題、つまりは泉と母親(父親)の問題について触れた点だった。

観る前のなんとなくの予想では、寅のその後(リリーとどうなったか)とか、満男のその後(誰とどんな結婚したのか)とかが語られるのかなあとばかり思っていた。いざ見てみるとどちらもほとんど触れられていない。
寅は生きているという事が分かる程度で、あとはみんなが思い出を語る程度でその後は語られない(これに関してはあえて触れない理由も分からなくもない。寅さんをあの頃のままにしておくにはこれが正解だと思うし)
満男の結婚はというと、なんと奥さんが6年前に死別していて、どんな人だったのか、どんなストーリーがあったのかという事も最低限の情報以外すべて切り捨てられている。
そして、代わりに触れられたのは泉とその両親との関係だった。
またまた正直な話、泉が出てきて満男との絡みがあるのは上記二つと同じ位想定できたけど、泉の両親についてくるとは思っていなかった。泉が出ていたのは後半数本だけで、その上泉と母親の関係なんて一部で触れられているくらいでシリーズ全48作品全体をみればささいな問題といえる。なので50周年記念のこの映画で触れられるとは思っていなかった。
しかし、同時に唯一未解決の問題でもあったと言える。
それはなぜか。
シリーズ最終回第48作目「男はつらいよ 寅次郎紅の花」がどんな話だったかを思い出してほしい、前半、泉が結婚するとしった満男は乱心し泉の結婚式に車で突っ込む。結婚式は取りやめ、満男は奄美大島に飛びリリー・寅と再会、満男の後を追いかけていった泉は奄美大島で再会し…という話だった。
たしかに、この回で泉の母親は満男のせいで結婚が取りやめになったことに怒り諏訪家にクレームの電話を入れ、そのことで泉とも喧嘩別れしてしまうという後味の悪い終わり方だった。
泉の母・礼子は寅次郎の休日編でヒロインで、なにより泉の母親である。そんな重要な人物で、きっと作りての想いもあったはず。それがあまり良い印象でない終わり方をしてしまったことにモヤモヤは確かに残る。
そのうえで、今作を見返してみると後半一番の見どころに泉と母親のやり取りを持ってきたのもうなずける。

またそれとは別に、自分が見ていて一番堪えたのが母親を泉が慰めるシーンだった。「いつもこうだったね ママがメソメソ泣いて あんたが慰めてくれて でもほんとはあんたが一番つらい目にあってるのにね。 許して…」このシーンの夏木マリの演技には泣かされた。。。

礼子はさくらのような理想の母親ではないかもしれない。しかし、それでも、たとえどんな形でも一人の母親であり一人の人間である。ということを24年の月日を経てこの台詞が改めて教えてくれた。そのことを踏まえても今作にやっぱり泉と母親の関係をえがいた一連のシークエンスは必要であったと思える。

そんなこと大声で言わなくても、家族が一部テーマであるこのシリーズで、泉と母親(そして父親)もまた家族であり、渥美さんの死によりやむなく終わってしまったシリーズの続編をつくる上でこの未解決問題について触れるのは割と普通の流れなのかもしれない。
しかし、逆を言えば今作は”50周年を記念して創られたシリーズとは少し切り離された作品”ではなく、それ以上に”シリーズの続編”として作られているのである。
それに気づいたことに、いちファンとして言い表しがたい喜びと感動を感じたという事をどうかわかっていただきたい。
Dana

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