りっく

男はつらいよ お帰り 寅さんのりっくのレビュー・感想・評価

3.4
顔で笑って、腹で泣く。主題歌でも登場するこのフレーズが、寅さんというキャラクターの本質であり、仮面を被ることでしか生きられなくなった、ある意味で社会不適合者である男の可笑しみであり、哀しみである。

本作は寅さんがいなくなって、彼という存在を懐かしみノスタルジーに浸る回想パートとと同時に、現代パートではもはや所帯を持ったキャラクターたちが大事な婚期を自ら逃してきた男の弱さを分析する、少し冷酷な視点も入っているのが面白い。

だが、山田洋次はそんな彼の人生において、数々のヒロインとの出逢いを振り返ってみせ、満男が描く小説の中で所帯を待たせることによって成就させてみせる。それは寅さんにはお節介かもしれない。だが、そんな照れ笑いも含めて多幸感が全身を包み込む。

やはり虎さんがいない現代パートの落差は否めない。後藤久美子まわりの三世代家族の介護問題は近年の山田洋次作品と同様にステレオタイプだし、難民問題を無理くりねじ込むあたり軸がブレる。

だが、その中心の不在こそが、寅さんというキャラクターの偉大さを物語っているとも取れる。寅さんがこの世にいない悲しみを感じて初めて、寅さんの笑顔の裏に隠された哀しみを感じられるのだ。
りっく

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