丸ゐン丸

きみと、波にのれたらの丸ゐン丸のレビュー・感想・評価

きみと、波にのれたら(2019年製作の映画)
2.5
「僕は、波にのれなかった」

Story
大学入学を機に海辺の街へ越してきた、どこか自信なさげなサーファー女子大生・向水ひな子。飛び火した自宅の火事で出会った消防士の雛罌粟港(ひなげしみなと)と出会い、恋に落ちる。しかし港はとある事故で命を落としてしまう。憔悴するひな子が、ある日ふと二人の思い出の歌を口ずさむと、水の中から港が現れる……。


数々の名作を送り出してきた監督・湯浅政明、脚本・吉田玲子ということで、観ないはずないないよね!と勇んで鑑賞。

まず言えるのは、スタジオサイエンスSARUによる作画は今回もすばらしい!!!の「君の名は。」「ペンギンハイウェイ」「海獣の子供」などで、各社次々に打ち出す「水の表現」に負けずとおとらぬオリジナリティだ。あの水を観ただけでも、十分モトが取れた(と思いたい)



声優においては港の後輩、山葵 (わさび)役の伊藤健太郎が秀逸。途中まで彼とは気付かない、声の作り込みがされて、後半の推進力に大きく作用している。いい声。神田沙也加のごとく、本格的に声優勉強をして主演アニメーション映画つくってほしい。


構図の取り方も斬新さがあり、冒頭の段ボールに囲まれたひな子の部屋からサーフィンに出て行く一連の流れに「おー!」と唸る!が………



特筆できるのは正直このくらいで……。総合的には肌に合わない点が多い作品だった。

作画はすばらしいのだけれど、統一性を感じられず、シーンごとに人物(特に脇キャラの)の顔やバランスが異なっているように見えて「あれ?こんな顔だっけ……」とモヤモヤを残す。ボードの質感も変わるし、もちろんスマホの形も変わる。

アニメーション作品でまず見るのが「建物と人物のサイズバランス」。最初のひな子の部屋や車の中の狭い所はバランスが取れている。にも関わらずカフェの敷地や、中盤から住む部屋が広すぎてクラクラする。(風呂がクソでかい!大学生そんなとこ住めるのかl!?)
クライマックスの「あの場所」に人力で行ったのなら相当疲れていてもおかしくないよな………。ていうかあんな危なすぎる場所を放置したままの自治体頭おかしいぞ。などという邪念が新しい場面が出てくるたびに巡って、内容が頭に入ってこなかった。

つまり、作画というか、美術設定のセンスに僕が合わなかったのです。(近年の「劇場版ドラえもん」や「未来のミライ」が素晴らしいのはそのバランスが取れているからだな〜〜と鑑賞中に思った)



シーンの切り替わり方も中々ブットンデいる!
①出会って
②付き合って
③思い出重ねて
④想いを語り合って
⑤港、死す
までプロセスが早すぎ、かつ、ゴリッゴリのリア充表現。全然二人に感情移入ができない。好きになれない。応援できない。
予告にもある、二つ合わせて絵になるスマホケースでセルフィーするシーンで(((キィェ〜〜〜!!!)))と脊椎が震えた。羨ましいとは違う、おぞましさ。電車でいちゃついているカップルを見させられている気分。もしくはそこまで仲良くない友人の結婚式で見るなれそめムービーをみた気分。
申し訳ないが、ここで観客は二分するのだろうな、と思いました。放水がまともにできない消防士と学生でスゴイところ旅行してるのも、なんだかな……いや、いいんだけど……。

港&ひな子の、今までまったく臭わせもなかった過去回想シーンが突然入って(あれ?僕なんか見逃してる??)と混乱したり、めちゃくちゃ嫌われていた港の妹の洋子といきなり仲良く水族館へ行っていて、その後すぐにまためちゃくちゃ嫌われたりと、洋子の不安定さが心配になる始末。

大学でいつ、口の悪い友達が2人ができたのか?
わさびと洋子はいつのまに出会ってたのか?
クライマックス場所の中央にある「アレ」も別に今まで一言もでなかったよな?
丁寧さに欠ける描写が多く感じられる。(僕の性格が悪いのもある)

歌うことで港を呼べる!やったーー!と判明する中盤から、ひな子は人目もはばからず水筒に入った港に話しかけていたり、自分よりも大きな水フィギュア?(あれ相当重いし、ちょっと浮いているよな………そら、なんだあれは?的な目で見られる)を引きずって電車に乗ったりカラオケに行ったりと、予告より遥かに上をいくヤバイ人表現が畳み掛けられる。怖い。
そう、この映画は恋愛ファンタジーではなく僕はオカルトホラーとして観ていたんです。

GENERATIONSの曲も設定上、繰り返し歌われます。恨みは全くないけれど、港を召喚する度に歌われて恐怖を感じるから、これがまたきつい。(これ、昔の曲だよね〜ていう設定の曲だけど、どう聴いても2010年代のJ-Pop)

実習中にPTSDになり、逃げ出すひな子。ここも本来は悲痛なシーンのはずだが、僕はこの時点で、全体的に引いてしまっているので同調できず…。

前半の恋愛ストーリーに嫌悪すると
後半のファンタジーゾーンに入っていけないというか。


決定的にこのカップルが応援できなくなったのは、港のスマホ(遺留品)のパスワード(「スマホを落としただけなのに」でも思ったけど、今時4ケタって!)について聞いたひな子への、港の・ア・ノ・返・答。
「いよ!!本性現しやがったな!」と膝を打った。


はっきり言って、港、嫌い。
これが肌に合わない一番の理由です。逆ナンされた時の断りかたも嫌い。

そんな港への印象も、後半にいくにつれやや回復し、クライマックスの映画的飛躍には興奮して感動もしました。


結果としては、湯浅監督、今回は様々な制約を叶え、職人仕事で作り上げた作品なのかな……と思わざる終えない。が、「メジャー層へのアプローチ」作品としてはここから新しい形が始まるのでは!という可能性にも満ちていると思いました。もう次の作品の公開が決まっており波に乗りまくっている湯浅監督。個人的にはご自身の世界観をじっくり作って欲しい所存ですが、これからも応援しています!


(余談)
ちなみに港の苗字「雛罌粟(ひなげし)」は花のポピーのことで、花言葉は「いたわり」「思いやり」。生まれながらにして人の役に立つぜ!といわんばかりのカルマネーム。ラストのメッセージのシーンで、ひな子と子孫を残して、末長く添い遂げてほしかった、と思っては不覚にも涙したのは事実。
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