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私、オルガ・ヘプナロヴァーの42のレビュー・感想・評価

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最も残酷なことは彼女が起こしたことではなく彼女が受けたこと全て。目に見える傷ではなく目に見えない傷。分かりにくい悪。たしかに苦しいのにその苦しみを誰も理解してくれないということはとても残酷なことだよ。死を選ぶくらいに。

あまりにも欠乏している。
オルガと向き合おうとしなかった家族、オルガを蔑ろにした社会、誰も与えようとしなかった愛、繰り返される暴力、彼女は心を潰され続けていた。

終始、じわじわと息の根を止められているような息苦しさがあった。
自分の病気を自覚する機会すら得られずに、適切な判断を誰も下さないまま。もちろん治療も施されないまま。

彼女を擁護するわけではないし、彼女の罪は重いけど彼女以外誰も悪くないのか?こんな誰が見ても分かるようなあからさまな罪しか裁かれないのか?彼女の心は?彼女の心を壊し続けた人たちは?
オルガの母親はどうしても許せないな。
あの涙が「こんなことするとは思わなかった」の涙ならそんなの言い訳にもならないし、愛も想像力も母親としての役割も全て欠落している。ふざけるなよ。

誰にでもオルガになる可能性はあると思う。全ての人とは言わないけど、オルガがあの行動を起こした原因のいくつかは誰かの中に、また違ういくつかが他の誰かの中にもあるんだと思う。ありふれた問題。ありふれた問題なのに目を向けられにくく本人の中で誰も知らないうちに積み重ねられていく。
他人事とは思えない。でも物語の始まりの時点でかなり難しいところまできていた気がする。母親はそれに気づかずにテキトーにあしらっていたけど。あの時既にもう手をつけられない絶望を感じた。
思春期の心の問題って治療が難しいのかもしれないけど、オルガと同じような境遇に立たされる人たちがこれ以上増えないといいなと強く思う。本当に。
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