もりゆうき

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンのもりゆうきのレビュー・感想・評価

4.6
この作品を見たとき、最近どこかで、近しい感情になったことを思い出した。
それは「福田村事件」を見たときに感じた感情だった。

『残虐な事件だったのが一緒』ということだけではなくて、それぞれの史実の裏には、人間の弱さ、愚かさ、そして誰かに都合よく作られた常識がある。ということ。そしてそれは、現代にも通じることであるということである。

【一応、ネタバレを含みます。】

予告編では、原住民の地域にやってきて金と権力を持ったヘイル、彼に従うアーネストと、捜査官のバトルが見どころだと思っていた。
でも実際は、アーネストとヘイル、そしてそれを取り巻く人々の愚かさと弱さが本編を通してずっと目を離せない見どころだった。
それにつけても、アーネストを演じるレオナルド・ディカプリオは、なんて人の道から足を踏み外した人の表現が上手いんだろう。ウルフ・オブ・ウォールストリートといい、今回といい。
ウルフ・オブ・ウォールストリートでは、道を踏み外しながらも強さがあった。だけれど今回は、ずっとずっとずっとアーネストは弱い。
愚かで弱くて、何度も何度も失望させられるけれど、その姿が、鏡に写った自分に見える瞬間も、その分だけある。

アーネストはずっと自分の人生に言い訳を作っている。
ヘイルに言われたから仕方ない。
自分はちゃんと言ったから悪くない。
家族のためだから正しい。
そして、最後の最後にも、医者に言われただけで知らなかった。
と、いう言い訳を捨てることが出来なかった。
この弱さを、『全く持って自分は理解できない』という人はどれだけいるだろうか。

そしてヘイルは、人の感情だったり行動だったりを、記号でしか見ていなかったのだと思う。
金をやれば、情報を与えれば、状況を変えれば、人は動く。動かないわけがない。ずっとそう思っている。
彼には共感できる箇所はほぼなかったけれど、彼自身が、金で人は簡単に殺せるというこの環境や常識そのものになっていた。

モリーの演技もすごかった。

改めて思うのは、この史実は、紙の向こうや画面の向こうだけの出来事ではないということ。
これを起こしたのも、現代と同じ人間で。
きっと何かのきっかけで、また起こり得るということ。

それが、会話よりストーリーより、人の表情の中に詰まっていた。
英語をもっと勉強すればよかったと後悔した。
字幕と表情を行き来するのがこんなに大変だなんて。

206分、決して短くはないし、視聴後感も決してあっという間ではない。
だけれど、どれも切ることができない206分。
体力があるときでいいので、ぜひ、見てほしい。
もりゆうき

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