蛇らい

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーンの蛇らいのレビュー・感想・評価

4.5
重厚そうな題材と長すぎるランニングタイムを懸念していたが、開始早々に映画を観ているんだというありありとした実感で、幸せの坩堝に叩き落とされた。

石油が掘り起こされてからのオセージ族の乱舞の後ろに流れる、ロビー・ロバートソンのアメリカの風土を思わされる音楽で一気にドライブする。そこに白人たちが町に流れ込んでくるシーンがいかにもアメリカ映画だった。

優しい表情でありながら目が笑っていないデニーロと、ダメ男すぎるディカプリオの演技が凄まじく、見入ってしまう。ともすればコメディリリーフになり得る主人公のバックグラウンドではあるが、壮絶な人間の愚かさと悪意が渦巻いてるのだから恐ろしい映画だ。

他人を殺し続ける主人公だが、自分の分身である子どもが病死したときには悲しみを表現する。その愛は我が子に向けられたものではなく、自分に向いていることに彼は気づいていないという構図は、人間の深層部にある本質なのかもしれない。

悲劇的なアメリカの不の歴史を扱い、重要なイシューでありながら、決して映画的な楽しさを損なわない面白すぎる映画に仕上げてしまう。スコセッシの異常な他と一線を画す手腕と、80歳とは思えない映画作家としての基礎体力に平伏した。
蛇らい

蛇らい